地すべり予防保全のための応力変形解析手法

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要約

地すべり崩土内部での進行的な破壊と、過去のすべり面に沿った再活動のすべりを適切に考慮した応力変形解析手法によって詳細な変形予測が可能になり、傾斜地農地における地すべり発生箇所の概定を行うための基礎的ツールとなる。

  • キーワード:農地保全、地すべり、斜面安定、有限要素法、弾塑性モデル
  • 担当:農工研・農村総合研究部・広域防災研究チーム
  • 連絡先:電話029-838-7535、電子メールkawamoto@affrc.go.jp
  • 区分:農村工学
  • 分類:技術及び行政 参考

背景・ねらい

農地等斜面災害を広域予防保全するためには、農地における変状の早期発見や発生初期の対策など、被害拡大を抑えるための予防保全行為を迅速に行うことが重要である。しかしながら、災害発生初期の兆候や、斜面災害の進行と地表に現れる変状との関連など、予防保全行為を行うために必要な基礎情報について、十分に蓄積・分析が行われていない。そこで本研究では、斜面災害の広域予防保全行為を実施する上で重要となる応力変形解析手法の開発を行い、災害の軽減に資する。

成果の内容・特徴

  • 地すべり崩土内部での変形の局所化を伴う進行的な破壊と、過去のすべり面に沿った再活動を適切に考慮できる応力変形解析手法を用いることにより、傾斜地農地における地すべりの詳細な移動を予測することが可能である。
  • 中山間地域において直轄地すべり対策事業が完工し、行政主体と地域住民合同の地すべり管理が行われている現地を調査・解析対象とし、すべり面粘土・崩土に相当する風化泥岩を採取して分析を行った。採取試料した残留強度(すべり面強度)測定には、我が国での測定結果がこれまで示されていない高精度リングせん断試験機を用いるとともに、ピーク・完全軟化強度の最も精度良い測定法とされている三軸圧縮試験を用いた実測(図1)により、パラメータを評価して解析に用いた。
  • 厚さゼロのすべり面を含む地下水流動(図2)に起因する荷重を土粒子に作用させる解析システムを構築し、傾斜農地における地下水等に起因する移動予測が可能である。
  • 崩壊時の地盤の動き(崩土での最大せん断塑性ひずみまたは、すべり面上での塑性変位)を図3に示す。過去のすべり面に沿う移動(零厚要素における疑似剛塑性挙動)と崩土内で変形局所化を伴いながら生ずる進行的な破壊を適切に考慮することによって、農地地すべりが生じる際の地盤各部の動きがきめ細かく予測されている。
  • 現行の斜面安定性評価手法である極限平衡法(スライス法)の結果を図4に示す。図中には安全率(厳密法と現行の簡便法の結果を併記)と併せて厳密法で安全率を求めた際のスライス間力の位置を示している。スライス間力は斜面下方の一部で地すべり土塊の外部に出ており、非合理的な解となっている。ここで示した手法により、従来の極限平衡法で非合理的な解となる場合にも解が得られることが明らかになった。

成果の活用面・留意点

  • 現地採取試料の物性測定を続行して測定データの信頼性を向上させるとともに、得られた解の客観性についても検討する必要がある。
  • この手法を用いて、現地条件により適合したシミュレーションを実施して地すべり発生箇所の概定を行い、この技術を用いた斜面災害予防保全手法の高度化を図る。

具体的データ

図1 土の強度特性図2 地下水の浸透解析結果

図3 地すべり発生時の土の動き(弾塑性解析結果)

図4 従来法による非合理的な解(極限平衡法)

その他

  • 研究中課題名:地域防災力強化のための農業用施設等の災害予防と減災技術の開発
  • 実施課題名:農地等斜面災害予防保全のための応力変形解析手法の開発
  • 課題ID:412-c-00-008-00-I-06-6806
  • 予算区分:交付金研究
  • 研究期間:2006~2008年度
  • 研究担当者:川本治、古谷保、山田康晴、中里裕臣、井上敬資
  • 発表論文等:川本・古谷・山田(2006),農工研報第46号,pp. 49-65
                      川本・古谷・山田(2006),第3回地盤工学会関東支部,pp.195-198.
                      川本・古谷・山田(2006),第45回日本地すべり学会,pp.289-292.