水田灌漑用水の経済価値定量化手法

要約

仮想的な状況を提示したアンケート調査データをもとに、農家の灌漑用水保全に対する支払い意志額から価値を求める手法であり、フルコスト価格との比較による用水の需給価格の差や、資源保全施策が対象とする用水資源の経済価値を評価できる。

  • キーワード:灌漑用水、需要行動モデル、仮想的状況、アンケート調査、用水の需給価格
  • 担当:農工研・農村計画部・事業評価研究室
  • 連絡先:電話029-838-7667、電子メール ykuni@affrc.go.jp
  • 区分:農村工学
  • 分類:技術及び行政 参考

背景・ねらい

世界的に不足する水資源の利用効率を高めるため、用水の価格付けによる市場メカニズムの導入が注目されている。しかし、用水量が膨大で期別変動が激しい水田灌漑用水では、稲作生産に対する需要面からの価格付け(経済価値)を定量化することは困難であった。
本研究は、仮想的な状況を提示したアンケート調査データを用いて、農家の水田灌漑用水保全に対する支払い意志額から経済価値を定量化する手法を開発するものである。

成果の内容・特徴

  • 本手法は、用水量に関する仮想状況を設定したアンケートデータをもとに、水田灌漑用水の需要曲線を確率的選択モデル推定法を適用して具体的に計測し、農業生産から見た水田灌漑用水の経済価値を定量化するものである(図1)。考案したアンケートの概要は、図2の通りである。
  • 図3に示すとおり、水田灌漑用水の需要曲線は、現状の水準(100Unit)を基点に、使用可能水量が低下するほど限界価値が上昇する曲線となる。また、取水地点から見て下流の用水ブロックに位置する水田では曲線が上方にあり、同じ水量に対して高い評価結果となる。
  • 需要曲線の下半の面積に相当する経済余剰額から求めた水田灌漑用水の経済価値は、約4,000~6,600円/10a/年となり、農業条件等の違いにより地区ごとに異なる。また、地区内で下流の用水ブロックに位置する水田で高くなり(1.3~1.7倍)、用水補給水田のような別水源をもつ水田で低くなる(表1)。
  • 水田灌漑用水の経済価値(33~55円/m3)は、水質の違いや通年利用か否かの違いを反映して水道用水の価格(155円/m3)を大幅に下回り、用水供給価格であるフルコスト価格の半分以下に相当する。この状況から、フルコスト価格に基づいて水田用水に価格付けがなされた場合は、現状の使用水量を大幅に下回る水量しか経済的に引き合わず、用水が使えない水田が増加することが示唆される(図3、表1)。

成果の活用面・留意点

  • 本手法による水田灌漑用水の需要面からの経済価値は、資源保全施策の効果や土地改良事業で実施する農業水利施設の更新効果(施設が老朽化して農業生産が低下するのを防ぐ効果)の定量化のときに活用可能である。
  • 手法適用に当たっては、地区ごとに十分なサンプル、綿密な受益農家への説明、適切な調査票の配布・回収を実施して、偏りのない調査を行う必要がある。

具体的データ

図1 水田灌漑用水の経済評価手法の概要

図2 アンケート調査の質問図3 水田灌漑用水の需要曲線(O 地区)

表1 水田灌漑用水の経済評価額

その他

  • 研究中課題名:農業水利施設等の機能診断・維持管理及び更新技術の開発
  • 実施課題名:農業水利施設の資産価値変化に着目した資源保全活動の経済的評価手法の開発
  • 課題ID:412-a-00-004-00-I-06-4405
  • 予算区分:交付金プロ(資源保全)
  • 研究期間:2003~2005年度
  • 研究担当者:國光洋二、蘭 嘉宣
  • 発表論文等:
    國光洋二(2003),「かんがい施設の価値評価を通じた農業用水需要に関する実証研究」日本農業経済学会論文集, pp.160-162
    Y.Kunimitsu (2006) "Pricing for irrigation water on Japanese paddy-fields: applicability of stochastic choice model," ed. K. Aravossis, et. al., Environmental Economics and Investment Assessment, WIT press, pp.285-293