洪水時に1回観測された衛星レーダを用いた水田湛水面と洪水水面との分離

要約

Lバンド(波長約23cm)の衛星による合成開口レーダのデータと数理形態学(モルフォロジー)解析手法を応用することにより、水田の通常湛水面と洪水水面を分離し、識別できる。

  • キーワード:合成開口レーダ、洪水、数理形態学
  • 担当:農工研・農村総合研究部・広域防災研究チーム
  • 連絡先:電話029-838-7535
  • 区分:農村工学
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

国産衛星「だいち」(ALOS)は災害観測を目的とし、当該分野のデータ解析手法が求められている。この衛星は、合成開口レーダ (Synthetic Aperture Radar: SAR、センサ名PALSAR、マイクロ波Lバンド、地上分解能10m)を搭載する。水田地域における洪水湛水域抽出を行うにあたり、「だいち」衛星が打 ち上げられるまでの間は、同じLバンドSAR搭載の古い「ふよう」衛星(JERS-1)データを用いて、後方散乱係数の低減と数理形態学を利用し組み合わ せた手法で概略を把握する手法を開発する。そこで開発した手法を「だいち」衛星データについて適用し、解析手法の改良を行う。

成果の内容・特徴

  • 「ふよう」衛星データを用いて開発した手法は、畦畔が水没した水田を洪水域と仮定する。レーダの反射特性から画像レーダで水 面は暗く、洪水で水没していない水田畦畔は明るく写るため、後方散乱係数値の閾値処理で取り出した畦畔部分の画像を利用する。さらに膨張処理した画像と、 別途閾値処理により水面抽出した画像との画像間演算により、洪水水面と通常水田を分離するものである。
  • 「だいち」衛星のPALSARデータは2006年10月12日のタイ中央平原雨季末期の洪水時(図2) のものを入手し、検討を行って上記1.の解析手順を単純化している。具体的にはノイズ除去をLeeフィルタに変更、後方散乱係数値の閾値処理で水面抽出し た画像に対し、水田区画の短辺長を膨張フィルタの大きさで割った値を指標に膨張処理の繰り返し回数を決定する。その後、大きめのテンプレートでオープン操 作して洪水域を取り出す手順である。(図1)
  • 上記の数理形態学的解析手法はいずれも洪水災害時の1回のデータ取得で解析可能であり、計算時間が非常に短いため、災害時の広域状況把握、対策支援情報として応用が可能である。

成果の活用面・留意点

  • 「だいち」衛星の解析結果は現地検証を行っていないが、宇宙航空研究開発機構が公表した洪水域や国連食糧農業機関の作物統計の公表資料等から、概ね水田地帯で洪水湛水被害域を現していると考えられる。
  • これらの手法はタイ中央平原だけでなく、日本を含むアジア地域で適用可能である。
  • 「だいち」衛星の後継衛星計画は4機体制で日本国内でも災害発生後3時間以内にデータ取得の計画があるので、「だいち」衛星による実用化が国内適用技術と成り得る。
  • 衛星による洪水災害の広域監視や解析結果の速報をインターネット上で行うための公開の仕組みに協力し、行政分野等で準備が進んでいる災害情報共有プラットフォームやセンチネル・アジアに解析結果を掲載すれば有用性が高いと考えられる。
  • 将来的にはニーズを踏まえつつ、農地防災関係事業で湛水被害の広域調査を衛星データで補完し、洪水域を把握して事後の被害軽減対策に活用できるものをめざす。

具体的データ

図1 洪水域の抽出手順図2 「だいち」衛星PALSAR レベル1.5 2006年10月12日のタイ中央平原全体(左)と洪水解析結果(右:白色が推定洪水域とタイランド湾海域)

その他

  • 研究課題名:地域防災力強化のための農業用施設等の災害予防と減災技術の開発
  • 実施課題名:ALOS衛星等のデータを用いた洪水湛水域抽出手法の開発
  • 課題ID:412-c-00-004-00-I-07-6402
  • 予算区分:交付金研究
  • 研究期間:2006~2007年度
  • 研究担当者:山田康晴、川本治、中里裕臣、井上敬資
  • 発表論文等:
    1)山田康晴(2007) 数理形態学的手法を用いて「ふよう」衛星(JERS-1)のLバンド合成開口レーダデータから洪水浸水域を迅速に求める手法、農工研技報 206:65-82
    2)山田康晴(2007)ALOS/PALSARを使ったタイ北部、インドネシアの洪水域抽出と農業被害について、平成19年度日本写真測量学会秋季発表論文集:125-126
    3)Yasuharu Yamada(2007)Flood mapping for paddy areas in Thailand and Indonesia using PALSAR data, the 1st JAXA ALOS PI symposium, Kyoto