フィルダム等の安全性を監視するワイヤレスマルチセンサ

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要約

フィルダム堤体の間隙水圧および土圧等の物理値を1台で計測できるワイヤレスマルチセンサである。ロックフィルダムにおいて現地試験を実施した結果、センサの施工性および計測状況は良好であり、信頼性の高い埋設計器として利用可能である。

  • キーワード:地中計測、ワイヤレス、挙動観測、間隙水圧、土圧
  • 担当:農工研・施設資源部・構造研究室
  • 代表連絡先:電話029-838-7571
  • 区分:農村工学
  • 分類:技術及び行政・普及

背景・ねらい

フィルダムは湛水開始後10年程度が最も事故が起こりやすく綿密な挙動観測が実施される。また、ダムの挙動が安定した後も、浸透水量等のマクロな挙動観測とともに間隙水圧等の局所的な堤体内部の物理値の観測が必要とされる。ところが、現状の堤体内部に設置される埋設計器の多くはケーブル式のため、雷や断線による故障が発生し、挙動観測に支障をきたす場合がある。本研究では、埋設計器の信頼性を高め、低コスト化を実現するために、先行開発したワイヤレス間隙水圧計を多チャンネル化し、ケーブルを必要とせず1台で複数の物理値が測定可能なワイヤレスマルチセンサを開発する。

成果の内容・特徴

  • 低周波電磁波を利用した間隙水圧および土圧を同時に計測できるワイヤレスマルチセンサを開発した。センサ本体部は通信アンテナ、電池、間隙水圧計等から構成されており、土圧計はケーブルで本体と接続されている(図1)。本体には最大8台(種類は、差動トランス、摺動抵抗及び直流電圧(0~1V))のセンサが接続可能である。計測頻度1回/日、データ送信頻度1回/週の条件で、電池寿命は約10年である。
  • ロックフィルダムにおいてワイヤレスマルチセンサの設置実験を行った。設置手順は、1)設置トレンチの掘削(3.0×1.2m)、2)掘削面を穿孔しセンサ本体を設置、3)コア材でのトレンチの埋め戻しの3段階である(図2)。設置作業に要する時間は1時間弱でありケーブル型センサ(8時間以上)に較べて作業時間を大幅に短縮できる。
  • ロックフィルダムにおける土圧の計測結果から判断すると、土圧計測値は、盛土の進行に伴い順調に増加しており、計測状況は安定している(図3)。
  • 地中無線通信の長期的な安定性を確認するために、ワイヤレス間隙水圧計と従来型の間隙水圧計を同時に埋設したダムを対象に両者の比較を行った。その結果、両者の計測値は良く一致した(図4)。また、6箇所のダムに設置されたワイヤレス間隙水圧計の稼働状況を調査した結果、良好に計測を継続していることを確認した。以上から、地中無線通信の長期的な作動信頼性は高い。

成果の活用面・留意点

  • 地中無線通信によるデータ搬送技術はフィルダム以外にも構造物基礎等の地中計測及び地すべり等の計測に応用が可能であり、この方面での新しい活用が期待される。
  • 築造年が古い長期供用ダムでは、埋設計器自体が設置されていない場合が多い。このようなダムに対してはボーリング孔にワイヤレス計器を設置することにより、挙動観測システムを構築することが可能である。ボーリング孔を利用した新たなワイヤレス埋設計器の設置法については2008年度から共同研究において検討する。
  • フィルダム以外にもコンクリートダムへの適用が可能と考える。実際の設置に当たってはセンサ構造、設置方法、鉄筋等の金属の存在等について検討が必要である。

具体的データ

図1 土圧・間隙水圧マルチセンサ

図2 センサ設置手順

図3 マルチセンサ計測結果(土圧)

図4 ワイヤレス-従来計器の計測値の比較

その他

  • 研究中課題名:地域防災力強化のための農業用施設等の災害予防と減災技術の開発
  • 実施課題名:フィルダム等を対象としたワイヤレスマルチセンサの開発
  • 実施課題ID:412-c-00-001-00-I-08-6102
  • 予算区分:交付金研究
  • 研究期間:2006~2008年度
  • 研究担当者:中嶋(浅野)勇、向後雄二、林田洋一、増川晋、田頭秀和
  • 発表論文等:1)向後ら(2006)ダム工学、16(3):165-176
                       2)林田ら(2008)農業農村工学会誌、76(9):13-16