農業用ダム貯水池の底層取水と水田導水を組み合わせた濁水対策

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要約

粘土を濁質とする濁水長期化問題を抱えた成層型の農業用ダム貯水池に対して、底層取水と水田導水を組み合わせた対策が有効である。底層取水で用水中に取り込まれた沈降しにくい粘土は、水路で受益水田に供給することにより、貯水池堆砂と濁水の河川への影響が軽減される。

  • キーワード:農業用ダム、濁水長期化問題、堆砂問題、水田、粘土、底層取水
  • 担当:農工研・施設資源部・水路工水理研究室
  • 代表連絡先:電話029-838-7565
  • 区分:農村工学
  • 分類:技術及び行政・参考

背景・ねらい

農業用ダム貯水池は、一般に滞留時間の長いものが多く成層化しやすいため、流域から流入する粘土がいつまでも沈降せず、下流河川に対して濁水長期化問題を生ずる事例が多い。本研究は、農業用ダムの受益地である水田を濁質の河川排出前の最終処理地点と想定して、ダム地点での効率的な高濃度の濁水取水を進めてこれを用水系に導くことによりダム堆砂量を軽減してダムの延命を図るとともに、河川環境に悪影響を及ぼす濁水の軽減と水田資材としての粘土供給を同時に可能とする濁水対策法の確立を目指すものである。

成果の内容・特徴

  • 対策実証フィールドは、フローティング式表層取水設備を有し、築造後約40年経過する農業専用ダムとその受益地である。出水の度に流域から粘土を主成分とする濁水が貯水池に流入する影響で、近年濁水長期化問題が顕在化している。3年にわたり約1ヶ月ごとに湖内水質鉛直分布を観測した。水温成層の発達・破壊(混合)過程と濁度分布(ほぼ土砂濃度に比例)の変化を図1に示す。毎年5~9月に水温成層が発達し10月以降破壊されて混合が進む成層型貯水池であることが明らかである。
  • 表層取水方式は、冷水温や貧酸素を回避して良質な灌漑用水を得るためには有益な取水方式である反面、表層の上澄みのみを取水して底層の濁質を放置するので、ダムの濁水問題や堆砂問題に対して悪影響を及ぼす難点がある。そこで本対策法では、濁質を積極的にダムから排出するための低位部取水(以下「底層取水」と呼ぶ)の併用による方法を提案する。図2は、図1の結果を基に、取水地点(表層、中層、底層)の違いと濃度変化との関係を示している。貯水池が成層化している時期には、底層取水方式の方が、現行の表層取水方式よりも濁質を高濃度で取水して、効果的に貯水池外に出すことが可能である。
  • 取水した高濃度濁水を水田に導き、水田を沈澱池に見立てて濁質を処理(水田に対しては資材である粘土を供給)する。非灌漑期において、ダムからの濁水を水田一筆(1,800㎡)に導き、濁水の軽減効果を試験した結果、給水による供給濁質(SS)に対する表面排水と暗渠排水の排出がほぼ40%以下に抑制されることが解った(図3の「ダムからの濁水補給あり」期間)。2009年度には、愛知県農業総合試験場が試験圃場を用いて同程度の処理効果を確認している。
  • 図4に対策法全体のフローを示す。本対策法の最大の特徴は、図中の「ダム地点での取水対策」と「水田地点での処理対策」を組み合わせることにより、用水系「内部」の濁水経路の運用・調整を通じて、用水系「外部」である河川系に及ぼす濁水の影響を軽減させることにある。

成果の活用面・留意点

  • 水田による粘土捕捉メカニズムと効果が明確ではない。沈降作用、吸着作用、濾過作用だけでなく植生による作用なども考えられるため、定量的処理効果や営農に及ぼす実際の影響については今後の課題である。
  • 図4の表層取水と濁水取水の比率をどのように調整するかの選択は、河川環境保全と水田の生産確保のトレードオフ関係上にあるため、実施にあたっては関係行政機関、土地改良区、農家間の合意と連携協力が必要である。

具体的データ

図1 ダム取水塔地点における濁度・水温鉛直分布

図2 取水地点別土砂濃度の季節変動

図3 非灌漑期における水田への濁水導水試験結果

図4 取水・処理対策の組み合わせと評価

その他

  • 研究中課題名:地域用水機能を向上させるための水利システム設計技術の開発
  • 実施課題名:水利システムを活用した濁水対策手法の構築
  • 実施課題ID:412a-00-007-00-I-09-4702
  • 予算区分:交付金研究
  • 研究期間:2007~2009年度
  • 研究担当者:樽屋啓之、向井章恵、田中良和