農業分野における障がい者就労の推進条件

要約

福祉分野との連携による農業分野での障がい者就労の推進には、異分野の資源や情報をつなぐ人材や組織、農地・技術・販路等を提供する地域住民の協力等が必要である。不足する場合には、人材や組織の育成、地域住民への協力意識醸成が不可欠である。

  • キーワード:障がい者就労、農福連携、農業生産法人、障害福祉サービス提供事業所
  • 担当:農工研・農村計画部・集落機能研究室
  • 代表連絡先:電話029-838-7669
  • 区分:農村工学
  • 分類:技術及び行政・参考

背景・ねらい

地域の中で障がい者が働く場として、福祉分野から農業分野に関心が寄せられており、障害福祉サービス提供事業所(以下「福祉施設」)が地域の農業経営体と連携しながら就労に取り組み、農業・農村の活性化につなげる事例が散見される。そこで、福祉と農業の分野連携により農業分野での障がい者就労を推進するための条件を、事例から抽出して類型化することにより明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 農業分野における障がい者就労支援事業のモデル15地区および他の調査事例から、福祉施設が農作業訓練等に取り組む場合に、確保が困難な共通の要素は、農地、附帯施設や農機具を含む作業場所(以下「農地」)、農業関連技術(以下「技術」)、生産物の利活用や販路(以下「販路」)の3つである。
  • 典型例の一つの岡山県A地区の福祉施設では、知的障がい者が雑穀栽培に取り組み(表1)、施設の近隣農家から耕作放棄地を借り、地域の農家や普及センターによる技術的指導を受け、地域住民と共に地域食のメニュー開発やイベントでの販売を行っている。また、福祉施設内に、農業の経験や専門知識を有する人材がいる。
  • もう一つの典型例の島根県B地区の福祉施設では、障がい者と施設職員が、農業生産法人での収穫や出荷調製等による訓練を行っている(表1)。1.の3要素は農業生産法人側が保有しており、同法人内に、福祉・医療の経験や専門知識を有する人材がいる。
  • これら二事例は、ともに農業と福祉・医療を結びつける人材を有するが、「農地・技術・販路」の所在に注目すると、「集中型」と「連携型」に模式化でき(図1)、A地区は前者に、B地区は後者にそれぞれ該当する。
  • 「集中型」の特徴は、福祉施設の内部には「農地・技術・販路」が存在するものの不足しており、福祉施設を核に地域の支援が集まり補完される点、「連携型」の特徴は、福祉施設の内部には「農地・技術・販路」が無く、これらの要素を有する農業経営体と連携することで利用できる点である(表2)。
  • 異分野の資源や情報を集約して橋渡しをする「人材・組織」の確保と、「農地・技術・販路」等を支援する地域の協力を促すことが必要であり、不足する条件を補う解決方策は「集中型」と「連携型」により異なる。

成果の活用面・留意点

  • 本報告での「就労」は、雇用(一般就労)ではなく、「福祉的就労」を想定している。但し、一般就労の契機となる場合を含む。
  • 農業分野で目指す就労は、障がいの種類を限定するものではないが、ここでとりあげた事例では、知的障がい、または精神障がいのある人の訓練を対象としている。
  • 他地域に適用する場合は、状況の変化に応じて柔軟に行動する多様な支援者の存在など、地域の実情を適切に把握する必要がある。

具体的データ

事例の概要

福祉分野と農業分野との連携の模式図

類型別の特徴と課題

その他

  • 研究中課題名:農村地域の活力向上のための地域マネジメント手法の開発
  • 実施課題名:農業分野における障害者就労支援手法の開発
  • 実施課題ID:413-a-00-001-00-I-10-7506
  • 予算区分:補助事業
  • 研究期間:2010年度
  • 研究担当者:坂根 勇、唐崎卓也、山下 仁、片山千栄、澤野久美、石田憲治
  • 発表論文等:1) 石田ら(2010)システム農学会2010年度秋季一般研究発表会要旨集: 45-46
                      2) 片山ら(2010)第59回日本農村医学会学術総会抄録集: 195
                      3) 片山ら(2010)第58回日本農村生活研究大会報告要旨: 20-21