堤体表面被覆によるため池堤体の豪雨対策工法

要約

堤体表面を遮水性浸食防止マットで被覆することにより、堤体表面からの降雨浸透を抑制してすべり破壊やパイピングを防止するとともに、上流斜面の経年的な波浪浸食や万が一の堤体越流時の浸食を防止できる。

  • キーワード:ため池、豪雨、対策、浸食防止マット、浸透抑制
  • 担当:農村防災・減災・農業水利施設防災
  • 代表連絡先:電話 029-838-7574
  • 研究所名:農村工学研究所・施設工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ため池は全国に点在する貴重な水資源であるが、豪雨による被害が数多く報告されており、約2,000個のため池で早急な対策が必要となっている。従来の前刃金工法を主体とした全面改修によって、これら全てのため池を改修するには多大なコストと年月を要する。提案する工法は、堤体を大きく掘削することなく、堤体表面に遮水性浸食防止マットを設置することにより、常時における堤体の不飽和水分状態を豪雨時においても維持することにより、低コストかつ簡便にため池の豪雨対策を行う工法である。

成果の内容・特徴

  • 本成果の工法は堤体表面全面に遮水性浸食防止マットを設置する工法であり、上流斜面から下流斜面まで一体的に施工することにより、すべり破壊、パイピング破壊、万が一の堤体越流による浸食、上流斜面の経年的な波浪浸食を防止することができる。
  • 遮水性浸食防止マットは、糸状樹脂がヘチマ状に絡み合ったマットに遮水シートが溶着された構造となっている。下流斜面では、ヘチマ状樹脂構造の内部に植生基盤材を投入し、芝等の植生によりマットを堤体表面に固着する。上流斜面では、吸い出し防止シートの上にマットを設置し、砂礫材を中詰めする構造である(図1)。
  • 豪雨時に堤体表面からの降雨浸透を抑えることによって、堤体内の水位上昇を抑止し、すべり破壊やパイピング破壊を防止することができる。模型実験、実証試験の結果から、遮水シートの密度(単位面積当たりの遮水材重量)を50~60g/cm2とすることで、植生根によりマットを堤体に固定するとともに、堤体への降雨浸透量を約50%まで低減することができる(図2)。
  • 遮水性浸食防止マットにより、万が一の堤体越流時に天端および下流斜面の浸食を防止することができる。模型実験(図3)の結果から、越流水深30cm、継続時間12時間の越流に対して耐久性がある。
  • 上流斜面の波浪浸食防止効果については、模型実験の結果から、波高11cm(風速15m/sの波浪に相当)、270万波(約50年相当の波浪に相当)に対して耐久性がある(図4)。
  • 施工は、堤体表面の整形・遮水性浸食防止マットの敷設・中詰め材投入・植生工の順で実施する。堤高10m、堤頂100mの堤体において、豪雨時のすべり安全率を同一にする条件で、従来工法(前刃金工法を主体とした全面改修)と比較して施工コストを最大で約1/3低減し、施工期間も大幅に短縮することができる。

成果の活用面・留意点

  • ため池の豪雨対策に係わる国・地方公共団体、土地改良区、設計コンサルタント等における活用が可能である。
  • 常時から浸潤線が高い漏水ため池に対しては、法先ドレーン工法などの併用が必要である。また、遮水性を維持するために、植生の管理に留意する必要がある。
  • 今後、設計・施工マニュアルを取りまとめる予定である。

具体的データ

図1 堤体表面被覆工法の概要図3 越流浸食実験
図2 遮水シートの目付量と遮水効果の関係図4 堤体表面被覆工法と無対策の波浪浸食深

(堀 俊和)

その他

  • 中課題名:災害リスクを考慮した農業水利施設の長期安全対策技術の開発
  • 中課題番号:412b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2009~2011年度
  • 研究担当者:堀俊和、毛利栄征、松島健一、有吉 充、上野和広
  • 発表論文等:1)堀ら 「堤体表面被覆によるため池堤体の豪雨対策」 特開2011-196143
    2)堀ら(2010)農業農村工学会誌、78(9):759-762
    3)堀ら(2010)農業農村工学会大会講演会講演要旨集:348-352