統合利水運用による渇水リスク低減効果の評価指標

要約

流域にダムや頭首工等の複数の農業水利施設が存在しているとき、これらを統合的に運用して低減できる渇水リスクを推定する指標である。これを用いて灌漑地区の再編整備において、水資源の有効利用の観点からその組み合わせを評価することができる。

  • キーワード:水資源管理、渇水、水田灌漑、分布関数、再編整備
  • 担当:気候変動対応・農地・水気候変動
  • 代表連絡先:電話 029-838-7538
  • 研究所名:農村工学研究所・水利工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

これまで、わが国では多くの農業水利施設が整備されてきた。それらの整備においては個々の灌漑地区で渇水が生じるリターンピリオドが10年に相当する年を計画基準年とし、その水需要を満たすように用水計画が策定されている。しかし、農地面積の減少等や気候変動による河川流量の変化等が生じるときには、灌漑地区における渇水リスクは当初計画と異なってくる。新規の水資源開発が困難である状況下において、渇水リスクが上昇する場合に既存の農業水利施設を有効に利用して安定的に農業用水を供給する必要性は高まっている。
相互に水融通が可能な複数の農業水利施設またはこれを含む灌漑地区の再編整備の構想段階において、一般的に入手可能な情報から統合利水運用による渇水リスクの低減効果を示す評価指標を提案する。

成果の内容・特徴

  • ダムや頭首工等の複数の農業水利施設を統合的に運用するときの渇水リスクの変化を渇水が生じるリターンピリオドで表現して定式化する(図1)。但し、式に用いられる需要量の確率分布にかかる関数を得るには、個々の灌漑地区において、長期間の水文水利資料を収集して用水計画・水源計画を算出しなければならない。
  • 図1の式において需要量の代わりに降水量を用い、2か所の灌漑地区の渇水が生じるリターンピリオドを10年と同一にしたことにより導出された指標I(単位:年)は、アメダス等の一般的に入手が可能な情報により統合利水運用による渇水リスクの低減効果を示すことができる(図2)。これは、リターンピリオド10年の渇水に対応する灌漑地区を統合した場合において渇水が生じるリターンピリオドを想定した指標である。
  • 評価指標の特性を示すために、累積分布関数に2母数のガンマ分布を用い、関東地方のアメダス観測点のすべての組み合わせにおいて灌漑期間(5~8月)総降水量により評価指標値を算出し、その間の距離と比較して図3に示す。2点間の距離の増加に従って渇水リスクの低減効果は増加するが、その値は距離が同じ場合でも大きく異なることが示された。半月毎降水量を対象として評価指標を算出して10km距離区間毎に指標値を平均して示した図4からは、関東地方においては田植え時期及び梅雨の前後において統合的利水運用の効果が高いことが示された。

成果の活用面・留意点

  • 農業水利施設や灌漑地区の再編整備を構想する段階で、この評価指標を用いて統合することによる渇水リスクの減少の可能性を推定することができる。
  • 図2に示した評価指標は需要減少が降水量に比例すること、2つの農業水利施設または灌漑地区における渇水リスクが同一であることを前提にしているため、この利用においては現地の実情に留意することが必要である。

具体的データ

 図1~4

その他

  • 中課題名:気候変動が農地・水資源等に及ぼす影響評価と対策技術の開発
  • 中課題番号:210e0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2012年度
  • 研究担当者:堀川直紀・増本隆夫・吉田武郎・皆川裕樹・工藤亮治
  • 発表論文等:堀川ら(2013)農工研技報、214:101-110