効果が高く、簡易・安価なカエル類脱出工

要約

農業水路に転落したカエル類の脱出対策として開発した、トレーニング施設の「肋木(ろくぼく)」に似た張り糸と簗(やな)を組み合わせた脱出工は、効果的にカエル類を脱出させることができる。この工法は既設水路にも簡単に設置でき、しかも安価である。

  • キーワード:生態系配慮、農業農村整備事業、環境保全活動、カエル類
  • 担当:水利施設再生・保全・水利システム診断・管理
  • 代表連絡先:電話 029-838-7685
  • 研究所名:農村工学研究所・資源循環工学研究領域、農村基盤研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

農業農村整備事業により農業用用排水路がコンクリートライニングされると、効率的な用水管理等が可能となる一方で、水路に転落したカエル類などの小動物が脱出できず死亡することが多い。この対策として、蓋を架け転落させないことが効果的であるが、1)費用がかかること、2)農機具の洗浄等の営農作業に支障を来し、水温上昇を阻害すると考える農家が多く、同意が得られにくいことから、実現した事例は少ない。
主に転落したカエル類を対象として水路壁面を傾斜させたスロープ式の脱出工が事業実施に合わせて導入されているが、流水環境では大きな脱出効果は得られない。また施工性、工事費の面から既設水路に設置できないことが多い。
このため、脱出率が高く、既設水路に設置でき、安価なカエル類の脱出工の開発が必要である。

成果の内容・特徴

  • これまでの現地調査や実験によれば、転落したカエル類が水路壁の垂下植物等を伝って脱出したり、水路壁の植物等に取りついた際不安定な状態がさらなる脱出行動に結びつく。これらの生態をもとに開発した、トレーニング施設の「肋木」に似た構造の施設に「簗」を組み合わせた脱出工(図1)では、カエル類は、1)簗下部から、あるいは簗を登った後に横に張った糸を登攀して脱出する行動と、2)簗からジャンプして脱出する行動(図2)の双方が可能である。
  • 脱出工上流でトウキョウダルマガエルを放流する実験(延べ30回)では、壁に近寄って脱出工に取りつく割合は流速が小さいほど高くなる(図3)。流下したカエルは水路壁近くの物陰に近寄る傾向が見られる。
  • 脱出工に取りついたカエルのうち半数以上が脱出に成功する。流速が0.21m/sの場合の脱出率は36.6%である。
  • この脱出工の材料は、木材(バルサ材と現地調達の小枝)、たこ糸、針金、コンクリート用接着剤のみであり(図1)、材料費は数百円と極めて安価である。また既存の水路に容易に装着できる。

成果の活用面・留意点

  • 本工法を設置するには高度な技術は全く必要なく、農地・水保全管理支払交付金等による環境保全活動など、地域住民自らの手による取組が容易である。
  • 現地に適用する際の留意点は以下の通りである。 1)複数箇所に設置するとさらに効果が上がると考えられる。2)たこ糸はできるだけ張力を確保するとよい。3)水路壁上部に物陰を作る、下流で堰上げて流速を下げるなど環境要因を変えながらモニタリングと順応的管理を行うことが望ましい。4)カエル類の転落は主に水田や畦畔に接している末端水路で発生するため、本脱出工は末端水路や支線水路に設置するべきである(このような小規模の水路では流速のコントロールが比較的容易である)。
  • ニホンアカガエルなど他種への適用可能性を検証する必要がある。

具体的データ

 図1~3

その他

  • 中課題名:農業水利システムの水利用・水理機能の診断・性能照査・管理技術の開発
  • 中課題番号:411b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2012年度
  • 研究担当者:森 淳、渡部恵司、小出水規行、竹村武士、西田一也
  • 発表論文等:森ら(2012)農業農村工学会誌、80(19):823-826