水田湛水中における亜鉛の形態別濃度の変化

要約

農地排水の循環的水利用において重要な重金属である亜鉛は、水田湛水中では主に懸濁態として存在する。灌漑初期に湛水中の亜鉛濃度は短期的に著しく上昇するが、それ以外の期間では環境基準(0.03 mg/L)を下回る。

  • キーワード:排水の循環利用、重金属、形態分別、環境基準
  • 担当:基盤的地域資源管理・用排水管理
  • 代表連絡先:電話 029-838-7546
  • 研究所名:農村工学研究所・水利工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

農業地域における排水の循環利用を安定的に維持するため、農地での水利用が水質汚濁リスクへ及ぼす影響を評価する必要がある。環境水中の重金属は、フリーイオンの状態で水生生物に対して強い毒性を示し、錯体の形成や懸濁物質への吸着によって、その毒性が弱められることが報告されている。特に亜鉛(Zn)は、公共用水域において濃度低減を図ることが必要であるため、環境基準に指定されている。そこで、水生生物の生息・繁殖場でもある水田表面の湛水を対象にして、Znの形態別濃度,及びその移動負荷量を明らかにし、農地排水の循環利用に対するリスク評価のための基礎的データを提供する。

成果の内容・特徴

  • 灌漑水中、及び水田湛水中におけるZnの主要な形態は懸濁態である(図1)。Znの形態別濃度の定量には、図2に示す形態分別法を用いる。Zn濃度の全量画分に占める懸濁態画分、非フリーイオン溶存態画分、及びフリーイオン画分の平均割合は、灌漑水でそれぞれ83%、3%、14%、水田湛水でそれぞれ80%、5%、15%と大差ない。水田湛水におけるZn濃度は灌漑初期に短期的に著しく上昇するが、それ以外の期間では環境基準(0.03 mg/L)を下回る。
  • 図1において、水田湛水の"5/16 16:20"と"5/19 15:00"における高濃度の測定値は、それぞれ代かき直後と移植直後のものである。人為的な水田表面の攪乱は水田湛水中のZn濃度を上昇させるため、代かき濁水の流出は水田からのZnの排出負荷量を著しく増大させる。
  • 代かきや移植の影響を受けない期間では、水田湛水の懸濁態画分およびフリーイオン画分の濃度は灌漑水に比較して同程度、もしくは低い傾向にある。このため、これらの画分の灌漑期の表面排水負荷量は灌漑負荷量に比較して、水量の減少比率以上に減少する(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、特定の水田圃場における現地水質観測の1事例である。
  • 本知見は、用排水管理におけるZnのリスク評価研究への活用が期待できる。
  • 調査圃場の土壌は中粗粒強グライ土、面積は30 aである。水質分析用サンプルの採水頻度は灌漑初期では1~3回/日、移植後では1回/週である。肥料によって圃場へ供給されるZn負荷量は0.8 g/ha/年(0.1 M HCl抽出)であり、水と共に移動する負荷量(表1)に比較して小さい。

具体的データ

図1~2、表1

その他

  • 中課題名:地域農業の変化に対応する用排水のリスク評価及び運用管理手法の開発
  • 中課題番号:420a0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2009~2011年度
  • 研究担当者:人見忠良、濵田康治、白谷栄作
  • 発表論文等:人見ら(2011)農業農村工学会大会講演会講演要旨集:782-783