圃場整備事業実施地区における農業経営の多角化への推進要因

要約

圃場整備事業の実施地区では、未実施地区に比べて農業経営の多角化に向けた取組がより多くなされている。圃場整備事業により農業生産基盤の条件を整えることは、農業経営の改善機会を提供して、多角化への推進要因となる。

  • キーワード:6次産業化、圃場整備事業、農業経営の多角化
  • 担当:基盤的地域資源管理・農用地保全管理
  • 代表連絡先:電話 029-838-7669
  • 研究所名:農村工学研究所・農村基盤研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

農業の6次産業化が求められる中で、農業者等による農業経営の多角化を促進するためには、根幹である1次産業の範疇で農業経営の改善が実現できるように、水利や土地など農業生産基盤の条件を整備する必要がある。しかしながら、農業生産基盤の条件を整備する圃場整備事業が農業経営の多角化を支える関係についての検討は経験的な理解に留まっているのが現状である。そこで、圃場整備事業実施地区に焦点を当てて、農業生産基盤条件の整備と農業経営の多角化に向けた取組との関係を鳥取県における取組事例から明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 鳥取県が事業主体として実施した(以下「鳥取県営」という。)圃場整備事業(以下「圃場整備」という。)の整備対象農地の分布と、農業者等の自由な発意に基づき農業経営の多角化を支援する同県独自の施策「チャレンジプラン支援事業」(以下「プラン」という。表1)の取組実績の分布とを、基準地域メッシュ(一定の規約に基づき緯度・経度で地域を約1km×1kmの網状に区画したもの)で比較すると、鳥取県営の圃場整備が実施された場所でプランがより多く取り組まれている(表2)。
  • 農業生産基盤条件の整備と農業経営の多角化に向けた取組との関係を明らかにするため、鳥取県営の圃場整備の実施地区について、様々な農業地域類型における農業経営体がプランを活用して経営改善に取り組んだ事例を調査し、整理すると、a営農の高度化、b新規作物の導入、c加工・販売の展開、に関する取組が共通して抽出される(表3)。
  • 表3を見ると、農産物の品質確保・向上のための用排水管理の最適化(適時に適切な水のかけひきを行えるようにすること)や農産物のロット確保のための経営規模の拡大に向けた農地の利用集積など、圃場整備による農業生産基盤条件の整備が、上記aとbの直接的効果やcの間接的効果をもたらすことで、これらの取組を通した農業経営の多角化の機会を提供している。
  • したがって、圃場整備による農業生産基盤条件の整備が、農業経営の改善機会を提供して、多角化への推進要因となることが示唆される。

成果の活用面・留意点

  • 農業者等の自由な発意に基づき農業経営の多角化を支援する施策が提供される地域において同様に活用できる。
  • 圃場整備やプランの対象農地の分布を示す位置情報が正確に入手できることが分析の前提である。

具体的データ

表1
表2
表3

その他

  • 中課題名:農用地の生産機能の強化技術及び保全管理技術の開発
  • 中課題番号:420b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2012年度
  • 研究担当者:坂根 勇、石田憲治、吉村亜希子
  • 発表論文等:
    1)坂根ら(2012)農業農村工学会大会講演会講演要旨集:156-157
    2)吉村ら(2012)農業農村工学会関東支部大会講演会講演要旨:112-113