豪雨に伴う水稲の冠水被害量推定のための模擬冠水試験法

要約

考案した模擬冠水試験法は多段階の水深区画と濁度の異なる水の組合せにより様々な冠水状況を同時に発生でき、条件毎に異なる水稲の減収率を推定できる。その結果より策定される減収尺度を活用することで、水稲の冠水被害量を定量的に評価可能となる。

  • キーワード:水稲減収尺度、模擬冠水試験、水田冠水被害、減収率、気候変動リスク評価
  • 担当:気候変動対応・農地・水気候変動
  • 代表連絡先:電話 029-838-7538
  • 研究所名:農村工学研究所・水利工学研究領域、農地基盤工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

豪雨時に発生する水田冠水は主な水稲減収要因の一つであり、冠水被害の予測手法の開発は重要である。ここで、水稲の被害度合いは冠水発生時の諸条件によって大きく異なるため、その評価では条件毎に被害歩合(減収率)を示した減収尺度の活用が有効である。一方、既存の尺度は古い稲品種のデータで構成され、冠水による品質低下に関する情報も不十分といえる。現行品種でこれらの情報を充実させるには実証試験が不可欠であるが、その手法は複数の冠水状況の設定が困難であるなどの課題があり、確立されたものはない。そこで本成果では、水深や濁度の異なる複数の冠水状況を同時に発生させ、そこで得た収量調査結果より水稲の減収尺度を策定するための模擬冠水試験法を新たに提案する。

成果の内容・特徴

  • 水稲は栽培用ワグネルポット(1/5000a)に移植する。この水稲を設定した生育段階になると冠水状況下に移動させ、期間終了後には通常栽培に戻す(模擬冠水試験)。冠水条件は表1に示す項目の組み合わせにより分類し、さらに結果の比較用に無冠水のポット(対照区)を設定する。最終的にすべての水稲を収穫し、詳細な収量調査を行う。
  • 模擬冠水試験では、通常の水稲栽培が行われている圃場内に設置する試験区(図1)を活用する。冠水区は、田面を階段状に掘り下げることで複数の水深区画を備えている。さらに同区は清水・濁水区に分かれており、濁水区では水中ポンプ等により区内の水を撹拌することで、人為的に濁水を発生させることができる。この試験区の活用により、複雑な水管理が無くても複数の冠水状況を同時に発生できる点が本試験の特徴である。
  • 収穫後に測定した穂重をみると、本試験法により冠水による水稲への影響を再現可能であることがわかる(図2)。収量調査では、粗玄米重に加えて玄米品質のうち整粒重量比を求める。これらの積で算定される精玄米重を尺度策定の基礎データとすることで、冠水による重量と品質の両方への影響を包含した減収尺度を得ることができる。
  • 対照区の精玄米重を基準とし、試験水稲の値を比較することで算定された減収率を生育段階ごとにまとめると、水稲減収尺度が策定できる(図3)。この減収率に、水田面積および面積当たり収量を乗じることで、冠水被害量を定量的に推定できる。また、その被害量に玄米買い取り価格等を乗じることで、経済的損失としての評価も可能である。

成果の活用面・留意点

  • 本成果に示すデータは、コシヒカリを用いて試験を実施した結果である。結果の精度を高めるためには、複数年試験を実施しデータ蓄積を図る必要がある。
  • 本試験に必要な試験区は圃場内のわずかなスペースに設置可能であり、一連の手法を様々な栽培品種に適用することで、各地域で必要とする水稲減収尺度が策定できる。
  • 策定される減収尺度は、気候変動リスク評価や排水計画策定時における水稲冠水被害の算定基準に用いる等の活用が期待される。

具体的データ

図1~3,表1

その他

  • 中課題名:気候変動が農地・水資源等に及ぼす影響評価と対策技術の開発
  • 中課題整理番号:210e0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2013 年度
  • 研究担当者:皆川裕樹、増本隆夫、名和規夫、堀川直紀、吉田武郎、工藤亮治、北川巌、瑞慶村知佳
  • 発表論文等:
    皆川ら(2013)応用水文、25:25-34
    皆川ら(2013)農工研技報、214:111-121
    皆川ら(2014)応用水文、26:82-91