簡易乳酸測定器による魚類の遊泳運動負荷評価

要約

魚類の運動負荷評価における簡易乳酸測定器利用の実験である。遊泳させたアブラハヤの同測定器による乳酸値には、遊泳時間の違いや麻酔の有無による影響は確認されず、流速(魚体長倍速度)と正の相関関係を示唆する結果が得られている。

  • キーワード:乳酸、遊泳実験、魚体長倍速度、巡航速度、麻酔
  • 担当:水利施設再生・保全・水利システム診断・管理
  • 代表連絡先:電話 029-838-7668
  • 研究所名:農村工学研究所・農村基盤研究領域、資源循環工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

魚道設置による水域のネットワーク化が各地で進んでいる。魚道の形式や規模には様々あるが、評価は多くの場合現場では遡上個体数の確認、実験室では遡上率に依る。何れも重要な評価軸であるが、遡上のし易さ、すなわち過大な負荷を負うことなく遡上できるか否かという視点も重要と考えられる。そこで、魚道評価への利用を見据えて、安価で入手容易な簡易乳酸測定器による遊泳運動負荷評価の可能性について実証する。

成果の内容・特徴

  • 供試魚は約3週間水槽飼育した野生のアブラハヤRhynchocypris lagowskii、簡易乳酸測定器はラクテート・プロ(アークレイ(株))である。本器による測定は容易で、本体に取り付けた使い捨てのセンサーに5μL程の血液を吸引させると60秒後に値が表示される。
  • 実験では次のように供試魚を区分する。水槽から取り出し直後に測定(G1)、取り出し後10分間バケツで休憩させた後測定(G2)、取り出し後10分間バケツで休憩、その後一定時間(5、10、30分間)遊泳させ(図1)、その後に測定(各々G3~G5)のグループで、各々には麻酔(FA100、濃度1/5,000)有りのグループ(G1’~G5’)も設ける。
  • 10分間の休憩は水槽からの取り出しの影響を考慮するためである。その影響は5分間以内に出て少なくとも3時間は残るという報告があるので、この休憩によって影響を考慮できる。麻酔は採血の作業性向上および倫理的配慮に則り使用が望ましい。そこで麻酔の有り・無しの2水準を設けて影響を評価する。有りにおける麻酔は採血直前に行う。
  • 測定結果を表1に示す。G3~G5、G3’~G5’における流速は32~34cm/sおよび22~23cm/sの2段階となっており(表1)、巡航速度(一般に2~4B.L.cm/sとされる。B.L.は供試魚の体長で、B.L.cm/sで示される流速を魚体長倍速度という)の上限付近の流速である。遊泳無し(G1、G2、G1’、G2’)と有り(G3~G5、G3’~G5’)の間に乳酸値の差がみられ(t 検定、p <0.01)、遊泳時間の違い、麻酔の有無による乳酸値の差は確認できていない(図2)。
  • 乳酸値に与える遊泳時間の違い、麻酔の有無の影響は小さいため、遊泳させた供試魚の乳酸値と魚体長倍速度の関係を整理する(図3)。図には右肩上がりの傾向が示唆され(相関係数:0.66、無相関の検定p <0.05)、本実験で設定した遊泳時間・流速の範囲においては遊泳時間よりも流速(魚体長倍速度)が運動負荷として影響したものと推察される。流速という運動負荷評価における簡易乳酸測定器の利用可能性が示唆される。

成果の活用面・留意点

  • 乳酸値による運動負荷の程度を視点とする魚道評価への展開が期待できる。
  • 追試によるサンプル数の増加、実験装置改良による設定可能な流速レンジの拡大等の必要がある。

具体的データ

図1~,表1~

その他

  • 中課題名:農業水利システムの水利用・水理機能の診断・性能照査・管理技術の開発
  • 中課題整理番号:411b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2012~2013年度
  • 研究担当者:竹村武士、坂根 勇、嶺田拓也、森 淳、小出水規行、渡部恵司
  • 発表論文等:竹村ら(2013)農業農村工学会論文集、81(2):87-88