浅層地すべりの影響を受けない無線式すべり面変位マルチセンサ

要約

1孔のボーリングに伸縮計と歪み計を組み合わせて埋設し、計測データを地上に無線伝送することにより、大規模地すべりにおいて浅層すべり面の活動による断線の影響を受けず、深層すべり面の位置・変位方向・変位量を長期的に監視できる。

  • キーワード:大規模地すべり、複数すべり面、長期モニタリング、多項目測定
  • 担当:農村防災・減災・農地・地盤災害防止
  • 代表連絡先:電話 029-838-8195
  • 研究所名:農村工学研究所・企画管理部・施設工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

すべり面深度100mに及ぶような大規模地すべりでは、2次的な地すべりの発達により複数のすべり面を有することが多く、浅層すべり面の活動により調査孔やセンサケーブルが破断し、深層すべり面の長期的な監視が難しいという課題がある。
本研究では、深層すべり面の挙動を長期的多角的に監視するため、フィルダム管理のために開発されたワイヤレス間隙水圧計の技術を応用し、ロガー一体型センサをすべり面付近に埋設し、低周波電波により観測データを地表まで無線伝送するシステムを開発し、現地適用を通じて手法の有効性・問題点を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • すべり面監視では、すべり面位置、変位量及び変位方向が調査対象となる。開発センサは、伸縮計と歪み計の組み合わせによりこれらの複数の物理量を1孔で観測でき、すべり面の想定位置に幅がある場合にも対応できる特長を持つ。変位量はすべり面想定区間を横断するワイヤの伸縮として計測する。すべり面位置と変位方向は複数深度に配置した歪み計の観測データから判断し、4軸の歪み計により変位方向検知精度を向上させている(図1)。
  • 図2は深度22~27mのすべり面想定区間に伸縮計(測定範囲1m)と深度方向に4つの4軸歪み計を配置した試作センサ(最大外径91mm)の観測結果である。2010年1月に掘削径116mmの調査孔に設置し、2013年12月現在稼働中である。電池寿命5年の設計に対し、電池電圧低下は2010年10月から2013年12月の間で最大1%程度である。
  • 歪み計は設置直後から応答が見られ、深度別歪み量からすべり面深度は約25mと推定され(図2c)、方向別歪み量の変化から北東-南西方向の地すべり変位が読み取れる(図3)。近傍のGPSによる地表水平変位と比較すると、融雪期の変位に対応した歪みの増加が認められる。一方、伸縮計は設置から応答開始まで2.5ヶ月要しており、変位開始・終了は地表変位と同期するが、地中変位量は地表変位量の1/10未満と有意に小さい(図2e)。2013年の融雪期は対策の進展により地すべり活動が沈静化傾向にあり、開発センサのデータからも対策効果発現が評価できる。
  • 伸縮計の初期無感期間、変位量の過小評価は、土槽せん断実験でも確認され、ワイヤ保護管内壁とワイヤとのクリアランスやせん断帯形成の影響と推定される(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 開発センサは、設置直後には歪み計によりすべり面位置、変位方向を把握することができ、その後伸縮計により変位の推移を把握できる。浅層すべり面の有無により無線式と有線式の観測方法が選択できる。
  • 試験地では最大深度88mまでの無線通信が可能であったが、ノイズ環境、地盤比抵抗などにより通信可能距離は変化するため、それらの事前確認が必要である。
  • 伸縮計の初期無感期間及び変位量の過小評価の改善には、センサの改良とともにせん断帯の厚さの低減のため設置時におけるセンサ周辺の適切なグラウチングが重要と考えられる。また、普及に向けてセンサ外径を小さくし、設置コストを下げる必要がある。

具体的データ

図1~4

その他

  • 中課題名:高機能・低コスト調査技術を活用した農地・地盤災害の防止技術の開発
  • 中課題整理番号:412a0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2010~2012年度
  • 研究担当者:中里裕臣、田頭秀和、鈴木尚登
  • 発表論文等:
    1)中里ら(2012)第51回日本地すべり学会研究発表会講演集:175-176
    2)田頭ら(2010)「地すべり観測システム」特願2010-234421