流し掛け水車の設計のための粒子法を用いた堰上げ予測法

要約

開水路における小水力発電の設計では、水車の設置による堰上げ高の予測が不可欠である。粒子法の一種であるMPS法に、薄い水車羽根を表現するため非均一粒子径モデルを採用した解析方法は、流し掛け水車の設置による堰上げ高の予測に有効である。

  • キーワード:開水路、流し掛け水車、堰上げ、MPS法、非均一粒子径モデル
  • 担当:基盤的地域資源管理・自然エネルギー活用
  • 代表連絡先:電話 029-838-7583
  • 研究所名:農村工学研究所・資源循環工学研究領域、水利工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

昨今のわが国のエネルギー事情を踏まえると、ダムのように大きな落差を有する地点だけでなく、全国に40万kmあるといわれる農業用水路に賦存する未利用の小規模水力を有効活用することが有望である。農業用水路の多くを占める開水路における小水力発電の設計では、溢水の防止のため水車の設置による堰上げ高の予測が不可欠であるが、その方法は確立されていない。ここでは、開水路に設置される代表的な水車の一つである流し掛け水車に着目し、その設置による堰上げの予測に対して、粒子法の一種であるMPS(Moving Particle Semi-implicit)法に非均一粒子径モデルを採用した解析方法が有効であることを明らかにする。

成果の内容・特徴

  • MPS法は非圧縮性流れと構造物を有限個の粒子で近似してラグランジュ的に解く方法であり、多くの場合に粒子径は均一とされる。しかし水車羽根のような薄い構造物の表現に合わせて全ての粒子径を設定すると、粒子の数が莫大となり、解析に要する時間も膨大となる。ここでは、(1)非均一粒子径モデルを採用して、水車羽根を構成する粒子の径のみを他よりも小さくし、(2)壁面では粒子を3層配置して表面にある粒子のみを圧力等の計算対象とする一般的な壁境界の設定方法(図1(a))を利用して、水車羽根の厚さ方向に粒子を4層配置して両側の表面の粒子のみを計算対象とする解析方法(図1(b))を提案する。
  • 上記1の解析方法を、詳細なデータが計測されている既往の流し掛け水車の模型実験に適用し、鉛直2次元の解析モデルを作成する(図2)。このときの粒子径は、水車羽根では厚さの1/4である0.00075m、その他では0.005mである。解析条件は、単位幅流量0.067m2/s、水車を設置しない状態の水深0.16m、同状態のフルード数0.35である。
  • 流し掛け水車の周辺の流れは非常に複雑であるが、提案する非均一粒子径モデルを採用したMPS法は、そのような流れを安定して解析することができる(図3)。
  • 水車の設置による堰上げ高について解析結果を実験結果と比較すると(図4)、0.005m程度大きい。この誤差は、水車羽根以外の粒子の径とほぼ同値であり、水車を設置しない状態の水深0.16mの3%程度である。さらに、水車羽根の高さおよび水車の回転数にかかわらずほぼ一定である。よって、採用した空間解像度(粒子径)では十分な再現結果であり、上記1の解析方法は流し掛け水車の設置による堰上げ高の予測に有効である。

成果の活用面・留意点

  • 現時点では、鉛直2次元解析のみを対象としている。3次元性の強い流れを伴う水車を設置する場合に対しては3次元解析を行う必要がある。
  • 本解析には、農林水産研究情報総合センターの科学技術計算システムにおける分散並列型クラスタシステムを利用した。

具体的データ

図1~4

その他

  • 中課題名:自然エネルギー及び地域資源の利活用技術と保全管理手法の開発
  • 中課題整理番号:420c0
  • 予算区分:交付金、実用技術
  • 研究期間:2010~2013 年度
  • 研究担当者:浪平篤、髙木強治、後藤眞宏、上田達己、廣瀬裕一
  • 発表論文等:
    1)浪平ら(2013)土木学会論文集B1(水工学)、69(4):I_607- I_612
    2)浪平ら(2014)土木学会論文集B1(水工学)、70(4):I_787- I_792