非多雪地域における温室の雪害対策

要約

非多雪地域の温室の雪害対策は、屋根上の滑雪阻害要因除去で被害を防ぐこと、降雪初期から屋根面を融雪すること、適切な斜材設置により構造接合部および骨組の破壊を回避すること、コンクリート補強により柱基礎接合部の曲げ耐力を増加させることである。

  • キーワード:関東甲信地方、温室構造、積雪荷重、気象災害、破壊パターン
  • 担当:日本型施設園芸・低コスト設計・制御
  • 代表連絡先:電話 029-838-7594
  • 研究所名:農村工学研究所・農地基盤工学研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

2014 年2月の大雪によって、関東甲信地方を中心に温室に甚大な被害が生じた。被災地となった、多雪地域以外に建設された温室を現地調査し、分類した破壊パターンおよび被災要因にもとづいて、荷重低減および構造補強の両面から、設計積雪荷重を極端に増加できない温室に関する低コストな雪害対策を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 温室の形式および暖房機の有無によって雪害対策は異なる(図1)。単棟パイプハウスでは屋根上に周年展張した農POフィルム抑え用ネット等、雪の滑落阻害要因が加わると単棟でも積雪荷重緩和が困難になる。降雪前のネット類の撤去、被覆材のたるみ除去、劣化したフィルムの撤去による滑雪促進が不可欠である。暖房による融雪を期待できない連棟施設の場合はフィルム除去をはじめとする屋根開放を選択肢に入れる。
  • 長期間の降雪が予想される場合は、移動式カーテンを全て開放した状態で降雪開始とともに暖房機を作動させて、融雪を開始する(図1)。降雪の判断には気象予報と併せてAMeDASデータや農業気象シミュレーション(中央農業総合研究センター・北海道農業研究センター)を活用する。雪の密度が異なれば同じ積雪深でも荷重は異なるため、必ず降水量を判断基準とする。
  • 図2に示すような柱基礎接合に接合用鋼管を使用する形式の接合部では、通常は中空である鋼管内へ細骨材を使用したコンクリートを充填することによって補強する(図3)。これにより、曲げ耐力が約25%増加する。
  • パイプハウスの主要な被災モードはアーチパイプの変形である。斜材設置による補強の一例として、軒と反対側の屋根(棟高の63~70 %の位置)を連結するブレース(直径3.2 mmのなまし鉄線)をX型に組み合わせる(図4)と、地盤条件や荷重条件によって異なるが最大で3倍程度の強度増加が見込まれる。連棟施設については柱設置ブレースの設置によって積雪荷重の水平方向成分に抵抗させる。
  • 温室建設敷地が盛土である場合、連棟施設では谷樋から越流した融雪水が地盤を飽和させることで、地耐力が減少して基礎の沈下につながる。フィルムの捨て張りなどで谷樋の一時貯水能力を高めること、フィルムの隙間から水がハウス内に浸入しないようにフィルム抑えスプリングを二重に固定する等の対策が有効である。

普及のための参考情報

  • 普及対象:園芸施設所有者、施設施工業者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:設計用積雪深が30-40cm以下程度の地域
  • その他:成果の一部は群馬県策定「雪害に対する農業用ハウス強化マニュアル」および日本施設園芸協会策定「平成26年2月の大雪被害における施設園芸の被害要因と対策指針」(いずれもダウンロード可能)に採用されている。生産者団体、市、県、関東農政局、日本施設園芸協会主催の研修会における講演による被災回避情報の共有が進行中である。

具体的データ

図1~4

その他

  • 中課題名:安全・省エネ・好適環境のための低コスト施設設計・環境制御技術の開発
  • 中課題整理番号:141b0
  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費特別研究促進費)
  • 研究期間:2014年度
  • 研究担当者:森山英樹、奥島里美、石井雅久
  • 発表論文等:森山ら(2014)農業施設、45(3):108-120