水路システムへの放射性Csの堆積特性

要約

水路システムに発生する堆積物の放射性Cs濃度は、流速が比較的遅い支線用水路における泥状堆積物中で比較的高い。また、幹線水路の掘込部に生じる堆積物中の放射性Cs濃度は、水路除染後に大きく低減する。

  • キーワード:農業用水路、堆積物、放射性Cs、水路除染
  • 担当:放射能対策技術・農地除染
  • 代表連絡先:電話 029-838-7200
  • 研究所名:農村工学研究所・水利工学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

東日本大震災に起因する東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴って福島県地方を中心に放射性物質の拡散が生じたが、その動態に関心が寄せられている。被災地において、農業用水路内の堆積物中の放射性Cs濃度は、一部で数万Bq/kgを超えるものが確認されており、今後、被災地域において水路内で発生する堆積物の管理方法を検討する上で、余水吐、分水工等を含む水路システム内での放射性物質の堆積特性を把握する必要がある。
本研究では、継続的に水稲栽培が実施されている地域の水路システムにおいて、定性的な放射性Csの堆積特性を把握することを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 調査対象の水路システムは、福島県中通り地方の原発60km圏内に立地し、阿武隈川より取水する幹線および支線用水路を含む総延長約25kmの水路システムである(図1)。
  • 水路内堆積物は、多くの地点において、その場所で過半を占める代表的な堆積物(主要構成部)と、部分的に存在し性状の異なる付加的な堆積物(副構成部)に分けられる。
  • 設計流速が比較的速い上流側の幹線水路(A,B,C地点)では、水路底全面への堆砂は少なく、余水吐や分水工などの掘込部への堆積が顕著である。主要構成部(図2(a))の性状は砂質で、その放射性Cs濃度は概ね2~5kBq/kgと低いが、副構成部(図2(b))は、泥状堆積物や未分解植物遺体より成り、その放射性Cs濃度は11~17kBq/kgと高い。
  • 設計流速が比較的遅い下流側の支線水路(D,E,F地点)では、流速低下部を中心に水路底全面または曲線部内側への泥状堆積物や未分解植物遺体を中心とする堆積が卓越し、堆積物の放射性Cs濃度は平均で12~19kBq/kgと高い(図2(a))。一方、水路に横から流入する土砂など一部の堆積物では、放射性Cs濃度が低いものもみられる(図2(b))。
  • 水路への単位面積当たりの放射性Cs堆積量は(図3)、航空機モニタリングによる放射性Cs沈着量(文科省)と比較すると多くの地点で小さい。従って、被災直後に水路内に沈着した放射性Csの多くは用水とともに流下したと考えられるが、支線水路の一部では、放射性Cs堆積量が沈着量を上回る地点もみられる。
  • 余水吐の掘込部において、水路除染による堆積物除去後のかんがい期間(2013年)で新たに発生した堆積物中の放射性Cs濃度は、前年度のものと比較すると大きな低下がみられる(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 本調査は2012年11月に実施した。また、余水吐の堆積物除去(水路除染)は2013年4月に実施され、水路除染後の補足調査は2013年11月に実施した。
  • 放射性Cs濃度が8kBq/kgを超えるものは、指定廃棄物として扱う必要がある。
  • 水路内堆積物の管理方法の検討の基礎資料として利用する。

具体的データ

図1~4

その他

  • 中課題名:高濃度汚染土壌等の除染技術の開発と農地土壌からの放射性物質の流出実態の解明
  • 中課題整理番号:510a0
  • 予算区分:交付金、その他外部資金(その他)
  • 研究期間:2012~2014年度
  • 研究担当者:久保田富次郎、濵田康治、人見忠良、樽屋啓之、田中良和、申文浩
  • 発表論文等:
    1)久保田富次郎ら(2014)農業農村工学会誌、82(3):33-37
    2)久保田富次郎ら(2014)農業農村工学会東北支部講要、128-131