東北の農家就業構造と家計構造は50歳代を境に大きく変化する

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要約

統計では、東北地域の農家は農外賃金と農業所得を合算しなければ家計費と均衡しないが、50歳代未満の世代の兼業賃金はそれだけで家計費を充足しうる水準にある。50歳代以上の世代が農業所得に依存しているため、地域的に農業所得が必須となっている。

  • キーワード:農外就業、農業所得、賃金水準、家計費
  • 担当:東北農研・寒冷地バイオマス研究チーム、東北地域活性化研究チーム
  • 連絡先:電話019-643-3494、電子メールnonaka@affrc.go.jp
  • 区分:東北農業・経営
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

兼業深化地域では世帯主男子は1人で世帯の家計費を賄いうる賃金を得ていることが先行研究により明らかにされている。このため農業所得の必要性は後退し農業構造変動の誘因となっている。一方東北の兼業賃金水準と農業所得の関係は充分明らかにされていない。本研究はこの東北の農外就業の賃金水準を分析し、今後の農家の就業構造の変化を展望する。

成果の内容・特徴

  • 農家の家計費は、南関東や東海地域のような兼業深化地域では、農外賃金だけで賄える。これに対し東北では農外賃金と農業所得を合算して家計費が賄える水準にある(図1)。
  • 都市近郊として青森県黒石市、岩手県盛岡市、宮城県石巻市、兼業機会が少ない地域として秋田県仙北市において農家調査を実施した結果に基づき、各農家ごとに家計費と農外賃金を比較すると、統計データと同様どの地域でも農外賃金だけで家計費を賄い得ない状況である。各農家ごとに成人数が異なるため、それぞれ成人1人当農外賃金と成人1人当家計費に換算して比較すると、農外賃金(平均172万円/年)は明らかに家計費(秋田県平均252万円/年)に届かないケースが多い(図2)。
  • 図2に各農家の経営規模から試算された農業所得を加えると、おおむね家計費を賄える水準(平均241万円/年)に達する(図3)。
  • 農外賃金の水準や就業形態は、世代間の違いを含んでおり、どの地域も共通して50歳代前半を境に、上の世代は農業就業と組み合わせた臨時的農外就業(日雇い)が多く、下の世代は常勤(正社員)農外就業が多い(図4)。下の世代の年間賃金は成人1人当たり家計費に均衡する水準(平均256万円/年)であり、上の世代は100万円程度の補助的な金額である。現在の農業所得の必要性は50歳代以上の世代が持つものである。

成果の活用面・留意点

  • 農外の労働力需要や賃金水準等の条件は一定と仮定している。
  • 兼業賃金水準が全国比較で低位であっても、家計費とのバランスを考慮すると農地貸し出しや耕作放棄が増加する可能性がある。

具体的データ

図1 各地域の所得と家計費の関係図2 成人1人当たり農外賃金と家計費

図3 成人1人当たり所得と家計費図4 男子農外賃金

その他

  • 研究課題名:東北農業の動向解析に基づく新たな担い手像の解明と地域食材を活かした産地戦略による地域活性化手法の開発
  • 課題ID:211-a
  • 予算区分:地域水田農業
  • 研究期間:2005~2006年度
  • 研究担当者:野中章久
  • 発表論文等:野中章久(2003)「東北における農家の就業構造の世代間格差」
                       『農業経済研究別冊 2003年度日本農業経済学会論文集』2003:55-57