発熱を遅延させる過酸化石灰を用いた水稲種子の密封式鉄コーティング

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要約

水稲直播栽培用の密封式鉄コーティングの仕上げに用いる焼石膏を種子重の5%の過酸化石灰資材に換えることにより、開封後の発熱を遅延させることができる。このコーティング方法による鳥害防止効果、苗立ち、収量は密封式鉄コーティング法と同等である。

  • キーワード:イネ、過酸化石灰、湛水直播、鉄コーティング、発熱、密封式
  • 担当:東北農研・東北水田輪作研究チーム
  • 代表連絡先:電話0187-66-2776
  • 区分:東北農業・作物(稲栽培)、作物
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

鉄コーティングは手軽で安価な水稲の湛水直播技術として普及し始めているが、コーティング後の乾燥に手間が掛かることや出芽が遅いといった問題点がある。その対策として山形県でコーティング後に密封したまま播種まで保管する密封式鉄コーティング(以下、密封鉄)が開発されている。密封鉄は鳩胸状態で播種できるので出芽は早いが、播種時の発熱で失敗する事例もある。そこで、発熱の遅い密封式鉄コーティング方法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 10kgの種子を0.5倍重コーティングする場合、浸種した種子に鉄粉5kgと焼石膏0.5kgを混合した粉をコーティングし、仕上げ用の焼石膏0.25kgの替わりに過酸化石灰資材0.5kgをコーティングし、播種時までビニル袋等に密封して保管する(以下、鉄過酸化石灰)。コーティング翌日の外観は灰色で黒色の密封鉄とは異なる。
  • 鉄過酸化石灰の開封後の発熱は、発熱を遅延させると報告されている酸化鉄と同様に密封鉄より遅い(図1)。
  • 防鳥網の有無による苗立率の差から求めた鳥害率は鉄過酸化石灰が酸化鉄より低く慣行鉄や密封鉄と同程度である(図2)。
  • 散播で用いられる場合がある背負式動力散布機の衝撃は、催芽種子の苗立率を低下させるが、種子をコーティングすることにより衝撃の影響はなくなる(図3)。
  • 鉄過酸化石灰は密封鉄と同じく、慣行鉄より初期の葉齢の進みが早く、草丈や乾物重が大きく、出穂期が早い(表1)。
  • 苗立率と倒伏程度、精玄米重は鉄過酸化石灰、密封鉄、および慣行鉄に実用的に差はない(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 過酸化石灰資材は、本成果の使用量では苗立安定効果はない。
  • 本成果はアルカリ性条件で鉄は錆びにくいという現象に基づいている。
  • 供試品種と鉄過酸化石灰区以外のコーティング方法は次の通り 品種:はえぬき(図1)、萌えみのり(図2図3表1) 密封鉄:15°Cで5日浸種、0.5倍重、コーティング後密封して30°Cで1晩保管 酸化鉄:密封鉄の鉄粉の70%を酸化鉄粉に替え、15°Cで5日浸種、0.5倍重、コーティング後密封して30°Cで1晩保管 慣行鉄:15°Cで5日浸種、0.5倍重、コーティング後乾燥 催芽:15°Cで5日浸種、30°Cで催芽 過酸化石灰:乾燥種子重と等量の過酸化石灰資材を催芽種子にコーティング
  • 鉄過酸化石灰は密封鉄や慣行鉄と比べて資材費が約40円/10a増加するが、種子10a分の作業時間は鉄過酸化石灰と密封鉄は25分で慣行鉄の38分より短い(播種量6kg/10a、コーティング比0.5とした場合)
  • 鳥害を受けない訳ではないので、鳥害を受け始めたら入水するなど適切な処置をとる。

具体的データ

図1 密封鉄等の発熱

図2 鳥による食害率

図3 動力散布機の衝撃が苗立率に与える影響

表1 水稲の苗立率と初期生育、出穂期、稈長、倒伏程度、精玄米収重

その他

  • 研究課題名:東北地域における高生産性水田輪作システムの確立
  • 中課題整理番号:211k.3
  • 予算区分:委託プロ(担い手)
  • 研究期間:2007~2009年度
  • 研究担当者:白土宏之、木村勝一、関矢博幸、吉永悟志、福田あかり、長田健二、福嶌陽、山口弘道、片岡知守、梶亮太、山口誠之