大規模リンゴ作経営成立のための省力生産・販売一体型ビジネスモデル

要約

大規模リンゴ作経営の生産性・収益性の向上には、常雇の導入による樹園地の適正管理に加え、省力技術体系の導入が必須である。また、外観品質の低下を補う価値を、顧客へ適切に価値伝達しうる直接販売・契約的販売が必要である。

  • キーワード:大規模リンゴ作経営、ビジネスモデル、常雇導入、省力技術体系、契約的販売
  • 担当:経営管理システム・ビジネスモデル
  • 代表連絡先:電話 029-838-8875
  • 研究所名:東北農業研究センター・生産基盤研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

手作業中心の技術体系であるリンゴ作では、規模拡大に伴い管理が粗放化するため、大規模リンゴ作経営が成立しないとされてきた。しかし近年、大規模リンゴ作経営の中には、生産・販売を変革することにより、他の規模階層よりも高い生産性、収益性を実現している経営が生じている。かかる経営は販売・生産を一体的に変革していることから、その分析にはビジネスモデルの視点が有効である。ビジネスモデルでは、どういう顧客にどのような価値を提供するかという点がまず重要であり、経営はその価値を実現するための販売および生産方策を、比較優位性の確保という条件で整備しなければならない。本研究では、13.5ha規模の個別リンゴ作経営(S経営)の事例に基づき、大規模リンゴ作経営のビジネスモデルの一つのあり方を示す。

成果の内容・特徴

  • 構築した大規模リンゴ作経営のビジネスモデルは図1の通りである。つまり、常雇の導入による樹園地の適正管理、省力技術の導入、消費者・小売企業との直接販売・契約的販売など生産・販売改革を一体的に進めつつ顧客に価値を提供することで、他の規模階層よりも高い生産性・収益性を実現し、さらに樹園地及び雇用の増大を図るというビジネスモデルである。
  • ビジネスモデルの具体的特徴は表1の通りである。常雇を導入してふらん病・ネズミ害対応、補植・改植の適宜実施など樹園地管理を適正に行うとともに、摘花剤・葉とらず栽培、減農薬栽培などにより省力技術体系を構築する。かかる省力技術体系は、一般的商品判断基準である外観品質を低下させることから、卸売市場のセリ取引では価格が著しく低くなる。そのため、顧客に提供する価値を「蜜入り、完熟、大玉(32玉標準)、葉とらず栽培など生産過程のこだわり」とし、その価値を理解する消費者、そうした消費者を重視する小売企業を顧客として確保する。小売企業には、「生産者ブランドの提供及び注文に応じた適時・適量の商品供給」という価値も提供する。
  • このビジネスモデルを実践するS経営の生産性・収益性は他の規模階層よりも高い(表2)。生産性では、樹園地管理を適正に行うことで土地生産性を維持し、省力技術体系の構築により高い労働生産性を実現している。収益性では、直接販売・契約的販売で高価格を実現したことにより、高所得を得ている。さらに、高所得と労働投入の減少により、高い家族労働単位当たり所得を実現している。また、15haを目標とするさらなる規模拡大を図っている。

成果の活用面・留意点

  • 大規模リンゴ作経営が合理的な担い手たり得ることが示されたことで、行政がリンゴ作経営の育成目標とすることができる。
  • 大規模リンゴ作経営の経営方針の参考となる。
  • 常雇の調達には賃金などにおいて地域性がある。

具体的データ

 図1,表1~2

その他

  • 中課題名:地域農業を革新する6次産業化ビジネスモデルの構築
  • 中課題番号:114b0
  • 予算区分:交付金、科研費
  • 研究期間:2011~2012年度
  • 研究担当者:長谷川啓哉、関野幸二、磯島昭代
  • 発表論文等:長谷川(2013)農業経営通信、255:6-7