気候温暖化における気温上昇下でも東北地方では冷害リスクが持続する

要約

気象庁超高解像度全球大気モデル(MRI AGCM)のダウンスケールデータを用いて将来気候下での冷害発生リスクを評価したところ、最も低温の事例では冷害が発生することから、最適作期設定などの冷害リスクマネージメントが重要である。

  • キーワード:冷却量、冷害、地球温暖化、MRI AGCM、作柄指数
  • 担当:気候変動対応・気象災害リスク低減
  • 代表連絡先:電話 029-838-7389
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・情報利用研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

将来の気候変動予測を用いたシミュレーションでは、東北地方でも夏季の気温は上昇するものの、イネに冷害をもたらすやませ発生の可能性がある。従って、気候モデルを用い、将来気候における水稲冷害の発生リスクを明らかにすること、その結果によっては最適品種や作期設定等のリスクマネージメントを行うことが強く求められている。そこで、気象庁気象研究所が作成した超高解像度全球大気モデルMRI AGCM3.2Sをダウンスケーリングし、将来気候における東北地方での水稲冷害発生リスクを評価する。

成果の内容・特徴

  • 気象庁気象研究所から提供された超高解像度全球大気モデル(気候シナリオA1B)について領域気候モデルを用いて10kmまでダウンスケールした。図1には、やませの常襲地帯である青森県八戸周辺のメッシュを例にして、現在気候である1979?2003年の期間で現在気候再現実験と実況の1か月平均気温と標準偏差の関係が保たれるようにバイアス補正を行った結果を示す。月単位の標準偏差を用いたため、月別値では完全に一致するが、図の日別値では若干の差が生じている。
  • 将来(2075-2099年)の出穂期を、一般的なDVI-DVRモデルを用いて推定した(図2)。パラメーターは「ひとめぼれ」の栽培データを用い、移植日は5月20日に固定している。将来気候では、東北地方平均で2.8°C昇温するため、それに対応して出穂期も前進し、東北地方平均で15.6日早まる。
  • 冷害リスクの評価のため、日平均気温20°C以下の値を幼穂形成期?出穂期まで積算する冷却量を用いた。八戸の冷却量を基準に上位3つの冷夏を比較したところ、冷却量20以上となるメッシュの割合は将来気候の方が小さい。しかしながら、将来気候下で上位3つのうち最も低温の夏は、冷却量20以上の割合が全メッシュの52.8%となり(図3)、現在気候下での2003年冷夏に匹敵する。太平洋側の特に北東部で低温となる、やませによる特徴的な気温分布も明瞭に表現されている。
  • 将来気候下での最も低温の夏について、作柄指数を求めた(図4)。気温と収量の関係については八戸の値から一般化加法モデルを用い平滑化スプラインを求め、作柄指数は前7年間の収量(g/m2)の最大値と最小値を除く5年間の平均収量を100とし、90以下となるメッシュで冷害リスクありと判定した。その結果、作柄指数が90以下となったメッシュが67.4%とやはり2003年クラスと判定されたが、青森県の日本海側ではあまり低下していないのが特徴的であった。

成果の活用面・留意点

  • 将来気候下で水稲の安定生産を行うためには、冷害発生リスクを考慮し、気温上昇に合わせた栽培法の開発や品種選択だけでなく、冷害をさける最適作期設定等の冷害リスクマネージメントも重要である。
  • 気候シナリオはA1B を仮定しており、異なる気候モデルを用いた場合についてはここでは論じていない。

具体的データ

図1~4

その他

  • 中課題名:気象災害リスク低減に向けた栽培管理支援システムの構築
  • 中課題整理番号:210a3
  • 予算区分:委託プロ(気候変動)
  • 研究期間:2012?2014年度
  • 研究担当者:神田英司、菅野洋光、大久保さゆり
  • 発表論文等:Kanda E. et al. (2014) J. Agric. Met. 70(4):187-198