異なる方式の種子消毒用乾熱装置内の温度分布と温度上昇特性

要約

種苗会社各社が種子の乾熱消毒に使用している乾熱装置は方式が異なり、庫内の温度分布や温度上昇の特性が異なる。種子袋の底面から吸気して種子に通風する方式の乾熱装置が、庫内の温度の均一性や温度上昇の速やかさの点で優れている。

  • キーワード:種子消毒、乾熱装置、温度分布
  • 担当:野菜茶研・野菜IPM研究チーム
  • 代表連絡先:電話050-3533-3863
  • 区分:野菜茶業・野菜生産環境
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

ウリ科作物の種子ではスイカ緑斑モザイクウイルスとキュウリ緑斑モザイクウイルスの種子伝染防止のために乾熱処理による種子消毒が実用化されている。種苗会社が使用している乾熱装置には様々な方式のものがあり、その性能も異なっている。本研究では、国内種苗会社3社の大型乾熱装置について運転中の庫内の温度分布を調査してそれぞれの機種の特徴を解析し、優れた装置を提案することで、乾熱装置を導入する際の参考に資する。

成果の内容・特徴

  • A社の乾熱装置は、種子袋を置いた棚段の袋の底面から吸気して種子に通風する方式であり、温度設定は40°Cで24時間の予備乾燥後、72°Cで74時間の処理としている。庫内の温度が安定してからの平均温度は計測点による最大差が0.4°Cと小さく、温度上昇も種子袋の上面では2.3時間以内、袋の下面では袋の上面より4時間以内の遅れで設定の72°Cに達する(図1)。
  • B社の乾熱装置は、庫内の一方の側壁から、もう一方の側壁へと送風し、網棚に種子を直接拡げて処理する方式で、温度設定は40°Cで約2日間の予備乾燥後、72°Cで約4日間の処理としている。温度上昇は、送風側の壁の下方から吸気側の上方に向かって進む。種子の上面では設定温度に達するまで1.8~9.5時間かかり、種子棚の内部では近傍の種子の上面よりも22時間遅れる計測点がある。庫内の温度が安定してからは、種子の上面の計測点間での温度差は最大で2.3°Cで、近傍の種子棚の内部との温度差はない(図2)。安定後の温度分布も、送風側の下方が最も高く、吸気側の上方に向かって勾配し、吸気側の下方で最も低くなる。
  • C社の乾熱装置では、種子袋を置く網棚の下方に送風口、上方に吸気口があり、温度設定は45°Cで約2日間の予備乾燥後、72°Cで約4日間の処理としている。棚の下部から温度上昇し、棚の上部の吸気口がある側に向かって温度上昇する。温度が安定してからの温度勾配は、棚の下部で最も高く、上部の吸気口がない側で最も低くなり、設定温度に達しない計測点もある(図3)。計測点による温度差は最大で4.9°Cとなる。種子袋の上面と内部での安定時の温度差は0.3~1.2°Cで、送風・吸気口から離れた側の棚の上部で大きくなる。設定温度到達までの時間では、種子袋の内部とその近傍の袋の上面で0.7~14時間の差となる。
  • 今回調査した乾熱装置の中では、種子袋の底面から吸気して種子に通風する方式のA社のものが、庫内の温度の均一性や、種子袋内も含めた温度上昇の速やかさで最も優れている。

成果の活用面・留意点

  • 種苗会社において種子の乾熱処理を行う場合に、正確な消毒処理および処理による発芽障害の発生回避のための参考となる。
  • 種苗会社において乾熱装置の新規導入、更新を行う際に機種選定の参考となる。
  • 本研究中の処理は、上記ウイルスの消毒に充分な条件である(植物防疫36:447、1982)。

具体的データ

A 社の乾熱装置の平面図(左)と棚の略図(中央)と運転中の庫内温度(右)

B 社の乾熱装置の平面図(左)と棚の略図(中央)と運転中の庫内温度(右)

C 社の乾熱装置の平面図(左)と棚の略図(中央)と運転中の庫内温度(右)

その他

  • 研究課題名:野菜栽培における土壌微生物、天敵の機能解明と難防除病害虫抑制技術の開発
  • 中課題整理番号:214k
  • 予算区分:実用技術
  • 研究期間:2006~2008年度
  • 研究担当者:窪田昌春、白川 隆、西 和文
  • 発表論文等:窪田ら(2010)関西病虫害研究会報、52:27-34