Brassica rapaの高レベル自家不和合性を制御する遺伝子座

要約

純度の高いF1種子の生産を可能にする高レベル自家不和合性に関与する主要なQTLは、Brassica rapa連鎖地図の2つの連鎖群に検出され、最も作用力の大きなQTLは連鎖群R07に位置する。

  • キーワード:Brassica rapa、高レベル自家不和合性、QTL、F1種子
  • 担当:野菜茶研・野菜ゲノム研究チーム
  • 代表連絡先:電話050-3533-3863
  • 区分:野菜茶業・野菜育種
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

アブラナ科野菜のF1種子生産に利用される自家不和合性は、個体老化などの内定要因や高温などの外的な要因により不安定になるために、自殖種子が混入することによるF1純度の低下が問題となる。高純度なF1種子生産を可能にするF1親系統を効率的に育種するために、Brassica rapaにおける安定して自己花粉を拒絶する高レベル自家不和合性に関与する遺伝子座を明らかにし、選抜DNAマーカーを開発する。

成果の内容・特徴

  • ミツバチを用いた放任受粉を網室内で行うと、高レベル自家不和合性を示すカブ自殖系統Ka1-22(S遺伝子型:S53S53)と低レベル自家不和合性ハクサイ自殖系統Ha1-400(SASA)の結実莢率(結実莢数/全開花数x100)がそれぞれ1.8?1.9%、54.4?63.3%となる(図1)。結実莢率が低いほど高レベル自家不和合性であることを示す。
  • 高レベル自家不和合性QTLは、Brassica rapa連鎖地図の5つの連鎖群に検出され、そのうちR03とR07のQTLは2カ年の自家不和合性程度の評価試験のいずれにおいても検出される(図2)。
  • 最も作用力が大きなR07のQTL(LOD7.4-9.4)は、同じ連鎖群に座乗するS遺伝子座とは異なる領域に位置する(図2、図3)。
  • R07のQTLはKa1-22のアリルが、R03のQTLはHa1-400のアリルが高レベル自家不和合性に寄与している。これらのアリルを両方ともに有すると推定されるF2個体群では、片方のアリルだけを持つか、あるいはどちらのアリルも持たない個体群に比べて、低い結実莢率を示す(表1のグループ2、3、8、9)。

成果の活用面・留意点

  • 主要なQTLの情報は、高レベル自家不和合性を有するBrassica rapa(ハクサイ、カブ、ツケナ等)の選抜DNAマーカー開発に活用できる。
  • 実用レベルの自家不和合性は、結実莢率が20%以下であることが望ましい。
  • ミツバチを用いた放任受粉による自家不和合性程度の評価方法の詳細は、Horisaki et al. (TAG, 107:1009-1013)に記載されている。
  • ハクサイ連鎖地図および座乗するマーカーに関する情報は、野菜DNAデータベース(VegMarks,http://vegmarks.nivot.affrc.go.jp/VegMarks/jsp/index.jsp)で公開している。

具体的データ

ミツバチを用いた放任受粉を行ったときの解 析集団の両親系統Ka1-22 とHa1-400 の結莢状況

高レベル自家不和合性のQTL が検出されたBrassica rapa 連鎖群 Ka1-22 とHa1-400 の交雑F2 を用いて連鎖地図を作成した。

R07 のQTL とS 遺 伝子座(矢印)との関係

F2個体におけるR07とR03のQTL近傍マーカーの遺伝子型と結実莢率の関係

その他

  • 研究課題名:野菜におけるDNAマーカー整備及び遺伝子機能解明と利用技術の開発
  • 中課題整理番号:221i
  • 予算区分:基盤、科研費
  • 研究期間:2006~2010年度
  • 研究担当者:畠山勝徳、堀崎敦史((株)トーホク)、新倉 聡((株)トーホク)、
    吉秋 斎、柿崎智博、石田正彦、福岡浩之、松元 哲
  • 発表論文等:Hatakeyama K. et al. (2010) Genome 53:257-265