加工品黄変の原因となるグルコシノレートが欠失した「だいこん中間母本農5号」

要約

「だいこん中間母本農5号」は、通常ダイコンに含まれ加工品黄変の原因となる4-メチルチオ-3-ブテニルグルコシノレートを含まない。この成分の欠失性は単因子劣性に遺伝し、本特性を有した品種を育成するための素材として活用できる。

  • キーワード:大根、成分育種、イソチオシアネート、辛味、着色
  • 担当:業務需要畑野菜作・露地野菜品種開発
  • 代表連絡先:電話 050-3533-3863
  • 研究所名:野菜茶業研究所・野菜育種・ゲノム研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ダイコン根部に含まれる含硫配糖体グルコシノレート(GSL)の一種である4-メチルチオ-3-ブテニルグルコシノレート(4MTB-GSL)の分解産物4-メチルチオ-3-ブテニル-イソチオシアネートは、たくあんの色調を特徴付ける黄色成分へと変化する。この黄変は自然環境下で制御することは極めて困難な上、色むらを生じやすい。また、業務用大根おろしにおいても、長期冷凍保存時の黄変が問題となっている。そこで、黄変しない漬物やおろし製造を可能とする、根部に4MTB-GSLを含まない品種を育成する。

成果の内容・特徴

  • 「だいこん中間母本農5号」は、放任受粉により維持されている地方品種「西町理想」の中から見いだされた4MTB-GSL含量が極めて少ない個体に由来し、自殖・選抜を5回繰り返した後、系統内個体間で放任受粉による集団採種を行い、4MTB-GSL欠失性および主要形質を固定させた品種である(図1、図2)。
  • 「だいこん中間母本農5号」の根部の総GSL含量は、比較的低い「耐病総太り」よりも明らかに低い。また、4MTB-GSLおよびグルコラフェニンは全く含まれず、グルコエルシンが主要GSLとして含まれる(表1)。
  • 4MTB-GSL欠失性の有無に基づくχ2検定の結果、「だいこん中間母本農5号」と「秋まさり2号」自殖後代との交雑にf2集団では4MTB-GSL欠失型:4MTB-GSL含有型が1:3に、「だいこん中間母本農5号」を連続親とするBC1F1集団では1:1の分離比に適合し、正逆交雑による分離比の歪みはみられなかった。このことから、4MTB-GSL欠失性は1因子劣性に遺伝すると推定される(データ省略)。
  • 「だいこん中間母本農5号」は理想系白首大根の特性を示し、根形はややつまる形状を示す。全重、根重、根長、最大部根径は「秋まさり2号」や「西町理想」に比べて何れも小さく、草勢は劣っている。また、す入りや空洞は他の3品種に比べて発生しやすい(図2、表2)。

成果の活用面・留意点

  • 本品種の4MTB-GSL欠失性は単因子劣性に遺伝するため、本品種と実用品種との交雑後代から4MTB-GSL欠失個体を確実に選抜することができるが、F1品種を育成する場合には、両親に本形質を持たせる必要がある。
  • グルコエルシン、グルコラフェニンは分解時に黄変物質を生じないGSLである。

具体的データ

図1 「だいこん中間母本農5号」の育成系統図
表1 育成地における「だいこん中間母本農5号」のグルコシノレート含量(2009年度)図2 「だいこん中間母本農5号」の形状(中央)
表2 育成地における「だいこん中間母本農5号」の収穫物特性(2010年)

(石田正彦)

その他

  • 中課題名:露地野菜の高品質・安定供給に向けた品種・系統の育成
  • 中課題番号:113b0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(加工)
  • 研究期間:2005~2011年度
  • 研究担当者:石田正彦、小原隆由、柿崎智博、畠山勝徳、吉秋齊、小堀純奈、松元哲、野口裕司、坂田好輝、小島昭夫、森光康次郎(お茶の水女子大)
  • 発表論文等:石田ら「だいこん中間母本農5号」 品種登録出願2012年5月1日(第27000号)