黄変や臭気の原因となるグルコシノレートを含まない品種「だいこん中間母本農5号」

要約

「だいこん中間母本農5号」は、通常ダイコンに含まれ加工品の黄変や臭気の原因となる4-メチルチオ-3-ブテニルグルコシノレートを含まない。本品種は、本特性を有した品種を育成するための素材として活用できる。

  • キーワード:大根、成分育種、イソチオシアネート、辛味、着色
  • 担当:業務需要畑野菜作・露地野菜品種開発
  • 代表連絡先:電話050-3533-4605
  • 研究所名:野菜茶業研究所・野菜育種・ゲノム研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

ダイコン根部に含まれる含硫配糖体グルコシノレート(GSL)の一種である4-メチルチオ-3-ブテニルグルコシノレート(4MTB-GSL)の分解産物4-メチルチオ-3-ブテニル-イソチオシアネートは、たくあん漬を特徴付ける黄色成分や臭気(たくあん臭)に変化する。この黄変や臭気は自然環境下で制御することは極めて難しい。また、冷凍保存する業務用大根おろしでも黄変や臭気の発生が問題となっている。そこで、黄変や臭気が生じない大根加工品の製造を可能とする4MTB-GSLを含まない品種を育成する。

成果の内容・特徴

  • 「だいこん中間母本農5号」は、地方品種「西町理想」の中から見いだされた4MTB-GSL含量が極めて少ない個体に由来し、自殖・選抜を5回繰り返した後、系統内個体間で放任受粉による集団採種を行い、4MTB-GSL欠失性および主要形質を固定させた品種である(図1)。
  • 「だいこん中間母本農5号」の根部の総GSL含量は、市販品種の中では比較的低い「耐病総太り」よりも明らかに低い。また、4MTB-GSLは全く含まれず、分解時に黄変や臭気が生じないGSLであるグルコエルシンが主要GSLとして含まれる(表1)。
  • 4MTB-GSL欠失性の有無に基づく遺伝解析の結果、4MTB-GSL欠失性は単因子劣性に遺伝すると推定される(データ省略)。
  • 「だいこん中間母本農5号」は理想系白首大根の特性を示し、根形はややつまる形状を示す。全重、根重、根長、最大部根径は「秋まさり2号」や「西町理想」に比べて何れも小さく、草勢は劣っている。また、す入りや空洞は「耐病総太り」他2品に比べて発生しやすい(図1、表2)。
  • 本品種を用いて製造したたくあん漬や大根おろしは黄変せず(図2)、臭気が生じない。

普及のための参考情報

  • 普及対象:種苗会社、公立研究機関。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:本品種の利用許諾契約を4件実施。本品種を利用して育成した2品種を品種登録出願中。
  • その他: 本品種の4MTB-GSL欠失性は単因子劣性に遺伝するため、本品種と実用品種との交雑後代から4MTB-GSL欠失個体を確実に選抜することができるが、F1品種を育成する場合には、両親に本形質を持たせる必要がある。

具体的データ

図1~2,表1~2

その他

  • 中課題名:露地野菜の高品質・安定供給に向けた品種・系統の育成
  • 中課題整理番号:113b0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(加工)
  • 研究期間:2005~2011年度
  • 研究担当者:石田正彦、小原隆由、柿崎智博、畠山勝徳、吉秋斎、小堀純奈、松元哲、野口裕司、坂田好輝、小島昭夫、森光康次郎(お茶の水女子大)
  • 発表論文等:
    1) 石田ら「だいこん中間母本農5号」品種登録番号22662 (2013年9月26日)
    2) 石田ら「黄変および硫黄臭が発生しない大根加工食品の製造方法」特願2012-068981
    3) Ishida M., Kakizaki T. et al. (2015) Theor. Appl. Genet. 128:2037-2046