クエン酸鉄(III)錯体のキュウリ炭疽病に対する発病抑制効果

要約

光を吸収して活性酸素種を生成するクエン酸鉄(III)錯体は、キュウリ炭疽病菌分生子の発芽を阻害し、キュウリ炭疽病に対し高い発病抑制効果を示す。

  • キーワード:クエン酸鉄(III)錯体、発病抑制、キュウリ炭疽病、活性酸素
  • 担当:環境保全型防除・生物的病害防除
  • 代表連絡先:電話029-838-8930
  • 研究所名:野菜茶業研究所・野菜病害虫・品質研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

クエン酸鉄(III)錯体が波長300~450 nmの紫外~紫色光を吸収して、スーパーオキシドラジカル、過酸化水素、ヒドロキシラジカルの3種の活性酸素種を生成することが広く知られており、工業分野では、クエン酸鉄(III)錯体を利用した難分解性物質の分解技術の研究が進められている。農業分野でのクエン酸鉄(III)錯体の利用は、鉄欠乏対策での土壌・葉面への施用に留まるが、活性酸素種の強い酸化力は、微生物の殺菌に有効であり、また過酸化水素は抵抗性誘導の情報伝達物質でもあるので、クエン酸鉄(III)錯体が病害防除に利用できる可能性が高い。そこでクエン酸鉄(III)錯体のキュウリ炭疽病に対する発病抑制活性を、塩化鉄(III)溶液とクエン酸溶液で調製するクエン酸鉄(III)錯体液を用いて検証する。

成果の内容・特徴

  • クエン酸鉄(III)錯体の活性酸素種生成活性を、80 μg / mlメチルバイオレットの脱色率で評価すると、塩化鉄(III)とクエン酸が0.1~1.0 mMの範囲では、塩化鉄(III)が0.3 mMあるいは1.0 mMで、クエン酸 1.0 mMの濃度で特に高い活性を示す(表1)。なお1.0 mM以上の濃度の塩化鉄(III)溶液はキュウリ葉に葉焼けが生じる(表2)。
  • キュウリ炭疽病菌Colletotrichum orbiculare分生子の暗黒下での発芽阻害率は、0.3 mM塩化鉄(III): 1.0 mMクエン酸で51.7 %阻害され、光照射下では84.7 %に高まる(表3)。塩化鉄(III)が1.0 mMの濃度では、クエン酸の濃度に関わらず、暗黒下で90 %以上の発芽阻害が認められ、光照射による阻害促進効果は評価できない。
  • 4葉期のキュウリ「光3号P型」にクエン酸を含むクエン酸鉄(III)錯体液を噴霧し、24時間後にキュウリ炭疽病菌の分生子懸濁液(1×104)を接種する検定方法では、0.3 mM塩化鉄(III): 0.3 mMクエン酸および0.3 mM塩化鉄(III): 1.0 mMクエン酸を含むクエン酸鉄(III)で病斑形成抑制率がそれぞれ74.2 %および75.5 %となる(表4)。1.0 mM塩化鉄(III): 1.0 mMクエン酸の噴霧では、病斑抑制率が55.7 %に留まることから、クエン酸鉄(III)錯体液は、0.3 mM塩化鉄(III)と0.3 mMあるいは1 mMのクエン酸で調製したときに、特に高い発病抑制効果を示す。

成果の活用面・留意点

  • 光照射下でのメチルバイオレットト脱色試験およびキュウリ炭疽病菌分生子発芽試験は、400Wメタルハライドランプを装備した25°Cの陽光恒温器内で実施し、光源との距離は約45 cmである。
  • キュウリ炭疽病の発病抑制試験は、温室の自然光下で実施し、接種後3日間晴天が続く気象条件下での結果である。
  • 降雨・曇天が続く場合は、クエン酸鉄(III)錯体の発病抑制効果は低下する。
  • 塩化鉄(III)、クエン酸およびクエン酸鉄(III)はいずれも農薬登録されていない。

具体的データ

その他

  • 中課題名:生物機能等を活用した病害防除技術の開発とその体系化
  • 中課題整理番号:152a0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2015年度
  • 研究担当者:寺見文宏、佐藤衛
  • 発表論文等:寺見、佐藤(2015)関西病虫研報、57:81-82