漏水ため池堤体改修のためのグラウト位置決定とアスファルト系グラウト工法の適用

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要約

漏水ため池のグラウト施工位置は、堤体の縦断方向に実施する1m深地温探査法により決めることができる。この位置にアスファルト系注入剤を用いるグラウト工法は漏水防止工法として有効である。

  • 担当:四国農業試験場・地域基盤研究部・上席研究官 地域防災研究室
  • 連絡先:0877-62-0800
  • 部会名:傾斜地農業
  • 専門:基幹施設
  • 対象:農業工学
  • 分類:指導

背景・ねらい

ため池の多くは堤体が築造されてから一世紀以上経過していることから、その多くは老朽化が進んでいる。この老朽化は堤体の漏水現象を伴う場合が多いので、堤体改修にあたっては漏水を防止することが重要である。
従来、この改修には前刃金工法が一級的に用いられてきたが、止水する土の入手難等から、グラウト工法の利用が期待されている。そこで改修堤体のために土質条件に適合する注入剤を用いた実用的な低コストのグラウト工法の敵用性を検討する。

成果の内容・特徴

  • ため池堤体上に測線と湖点群を堤体と平行方向に設定し、測点群毎に精度の高い温度センサを用いて1m深の地温を1~2m程度の間隔で計測する。この作業によって、他の測点と異なる地温異常範囲を把握する。
  • 堤体中の地温異常は主に堤体を浸透する漏水によって生ずる(図1、2)ことから、1m深地温と堤体の漏水侵出状況等から、堤体中の漏水経路を推定し、グラウト施工範囲を決定する。
  • ため池堤体にグラウト施工を行う際には、堤体の漏水域より深い位置まで注入剤を注入して止水する。アスファルト系注入剤(標準配合:アスファルト82%、セメント7%、6%ベントナイト液6%、増量剤4%、添加剤0.6%)には、耐久性(図3)と止水効果(表1)が認められた。なお、グラウト施工した盛土の漏水量実測値は8mm/dayとなって、十分な止水効果を認めた。
  • 1つの注入点での改良範囲は半径1m程度であることから、注入点は半径75cm程度に連続的に行えるように配置することで支障がない。この時に施工中の注入剤が地表へ吹き出す場合には、急速凝固剤で吹き出しを止めることができる。
  • ため池堤体の断面積が堤体の安全上十分である場合など一定の条件で、本成果を用いることによりため池堤体を前刃金工法よりも低コストかつ効果的に改修出来る。

成果の活用面・留意点

  • 1m深地温探査は、1m深地温の温度差が生じやすい夏期、または冬季に行うことが望ましい。
  • 波の浸食等による堤体の体積減少が大きい場合は、堤体の安全上必要な断面積を確保するために前刃金工法で改修を行う必要がある。漏水の流速が早い場合は、最初に急速凝固セメント等で空洞を充填した後、アスファルト系注入剤で施工する。アスファルト系注入剤を用いる場合は、一般のクラウト施工機械の送水パイプの口径、吹き出し口の構造等を改良する必要がある。

具体的データ

図1.A池での調査結果例

 

図2.B池での調査結果例

 

図3.土と注入剤の混合供試体耐久試験

 

表1.アスファルト系注入剤による盛土注入試験結果

 

その他

  • 研究課題名:軟質注入剤による低コスト漏水防止工法の開発
  • 予算区分:特別研究(溜池機能向上)
  • 研究期間:平成9年度(平成8年~10年)
  • 研究担当者:山下恒雄、吉迫宏
  • 発表論文等:吉迫宏・山下恒雄:ため池堤体活水調査への1m深地温探査法の適用、第52回農業土木会 中国四国支部講演要旨、P99-101(1997) 山下恒雄:ため池堤体グラウト材料の基礎試験、第52回農業土木学会中国四国支部講演要旨、P259-261(1997)