イチゴの花芽発達に悪影響を及ぼす高温遭遇の程度

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要約

低温処理で花芽分化誘起して促成栽培を前進化させる場合、処理後の株が昼/夜温35/20°C程度の高温に数日遭遇すると花芽発達が阻害される。25/20°Cではほぼ阻害されない。高温遭遇日数が5日以内で遭遇時期が処理直後の場合は悪影響が小さい。

  • キーワード:イチゴ、花芽発達、高温、温暖化
  • 担当:近中四農研・環境保全型野菜研究チーム
  • 連絡先:電話084-923-4100
  • 区分:近畿中国四国農業・野菜
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

イチゴの収穫期を延長するために、市場評価の高い促成栽培用品種に夜冷短日または暗黒低温処理を行って花芽分化時期を前進化させ ることが広く行われている。この場合、花芽分化誘起処理の時期を早めるほど、処理後、より高温条件にさらされることになり、花芽の発達に悪影響がでること が懸念される。花芽分化誘起処理(夜冷短日または暗黒低温処理)を行った株を、時期と期間を変えて高温に遭遇させ、花芽分化誘起処理の効果やその後の花房 の発達がどのように影響されるかについて知見を得る。

成果の内容・特徴

  • 慣行よりも短日数(20日間)の夜冷短日処理で花芽分化誘起させた、慣行の定植苗に比べ花芽発達段階のやや低いイチゴ苗を、 昼/夜温=35/20°C(明期12時間)程度の高温に5~10日間遭遇させると、処理有効株率(花芽分化誘起処理の効果で頂花房花芽が発達する株の割合) が低下する。また、その際の処理有効株においても、処理後に定植してから出蕾までの花芽発達が遅れやすくなり、その程度は高温遭遇期間が長いほど顕著であ る。このことは年内収量に大きく影響し、夜冷短日処理後、10日間高温に遭遇すると年内収量の約4割低下をもたらす(図1、図2)。
  • 暗黒低温処理によって花芽分化誘起し、頂花房花芽の分化段階が肥厚期前後まで達した苗を定植し、その後、昼/夜温=25 /20°C(明期12時間)程度の温度条件下におくと、ほぼ100%の処理有効株率が得られる。一方、暗黒低温処理後、昼/夜温=35/20°C程度の高温に 2~10日間遭遇させた場合、高温遭遇は分化直後の花芽発達に阻害的に働き、処理有効株率の低下や花芽発達の遅延が生じやすくなる。その影響は高温遭遇期 間が長いほど著しい(データ略)。
  • 暗黒低温処理の後に定植した株が高温に遭遇したとしても、その遭遇日数が5日以内であると悪影響が小さく(図3、図4)、また、遭遇時期が定植直後であるほうが、定植の5~10日後であるより悪影響が小さい(データ略)。
  • 年内収量から判断すると、暗黒低温処理によって花芽分化誘起した株では、定植後15~20日間継続して日平均25°Cを上回る高温条件にさらされた場合には、暗黒低温処理を実施した効果が失われやすい(図3、図4)。

成果の活用面・留意点

  • 試験地は京都府綾部市で、品種「さちのか」を用いた結果である。「さちのか」は、品質良好であるが、低温・短日環境下で生殖生長への転換を開始する感応性が、促成栽培用品種のなかでは若干低いと考えられている品種である。
  • 昼/夜温=35/20°Cは、試験地で9月20日以前に定植した場合の環境にほぼ相当する。
  • http://wenarc.naro.affrc.go.jp/seika/seika_print/materials/houkoku_No.5/kumakura.pdfに発表論文1)が公開されているので、ここに記載できなかったデータについては参照されたい。

具体的データ

図1 夜冷短日処理とその後の高温処理がイチゴ「さちのか」の出蕾株率の推移に及ぼす影響図2 イチゴ「さちのか」の年内旬別収量に及ぼす夜冷短日処理とその後の高温処理の影響

図3 暗黒低温処理(8月10日開始)とその後の高温処理がイチゴ「さちのか」の年内旬別収量に及ぼす影響 wenarc07-20-4z.gif図4 暗黒低温処理(8月25日開始)とその後の高温処理がイチゴ「さちのか」の年内旬別収量に及ぼす影響

 

その他

  • 研究課題名:中山間・傾斜地における環境調和型野菜花き生産技術の開発
  • 課題ID:214-u
  • 予算区分:交付金プロ(気候温暖化)
  • 研究期間:2003~2007年度
  • 研究担当者:熊倉裕史、山崎敬亮、池田敬(明治大農)
  • 発表論文等:
    1) 熊倉ら(2005)近中四農研報、5:1-18
    2) 熊倉ら(2005)近畿中国四国農業研究、6:42-49
    3) 熊倉ら(2004)近中四農研報、3:37-46