過疎・高齢化地域におけるリーダーの存在構造の把握と特徴

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要約

過疎・高齢化地域でのリーダー間の相互認知関係は、特定のリーダーに集中した網目状の構造や鎖状ないし点在状の構造にあり、またトップリーダーと相互認知関係にあるリーダーは少ない。分布状態ではリーダーが特定の地縁組織に集中し偏在的な地域もある。

  • キーワード:過疎・高齢化地域、HRI、リーダー、相互認知関係、分布状態、存在構造
  • 担当:近中四農研・地域営農・流通システム研究チーム
  • 代表連絡先:電話084-923-4100
  • 区分:近畿中国四国農業・営農、農村工学
  • 分類:技術及び行政・参考

背景・ねらい

過疎・高齢化は、総人口や青壮年層の減少という量的側面にとどまらず、地域の担い手やリーダーといった人材の減少にともなう地域ポテンシャルの低下という質的側面もある。過疎・高齢化地域においてリーダーの育成・確保が課題とされている所以だが、その方策を検討する際に重要となる、当該地域におけるリーダーの存在状況を相互認知関係と分布状態の観点から存在構造として捉え、具体的・客観的に把握し特徴を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • リーダーの3側面(信頼、地域生活、地域農業)について誰がリーダーであるかを住民に指摘してもらい、その被指摘数に応じてリーダーとしての度合いが総合的・定量的に計測可能な指標(Human Resource Index:HRI)を用いる(式1)。
  • 過疎・高齢化地域(地域F、S1、S2)を対象に、HRIの一定の基準値(本分析では地域Fでの被指摘実態を考慮した0.04)によりリーダーを検出し(図1)、ソシオグラムを作成することで(図2)、特徴が異なるリーダーの存在構造として以下の3つを示す。 地域F:相互認知関係では9人中7人(1、2、3、4、5、6、7)が1つの集団を形成し、かつ1、2、4と2、3、4の各3者の間にはお互いがリーダーとして認め合う強固な三角関係(クリーク)が成立しているため、矢印の分布はいわば網目状である。ただし、矢印が2にのみ集中しているため2がいなくなると新たに3人(5、6、7)が孤立する。ここでは、2以外のリーダー間での相互認知関係の構築や2を代替するリーダーの育成が必要である。 地域S1:相互認知関係では6人中 4人(3、4、5、6)が孤立し、かつ他のリーダー間にクリークは確認できないためリーダーの存在は点在状である。リーダーがいてもリーダー同士が相互にリーダーとして認知していないことは、集団としての意思決定に障害となりうる。ここでは、孤立しているリーダー間での相互認知関係の構築が必要である。 地域S2:相互認知関係では10人中6人(1、2、2(HRI同順)、4、6、9)が1つの集団を形成しているが、クリークは確認できず矢印の分布は鎖状である。また分布状態は、リーダーが特定の部落に偏在する一方、リーダー不在の部落が5つ存在する。このため、クリーク状の相互認知の関係性構築、リーダー不在の地縁組織への対応が必要である。
  • 3地域ともトップリーダー(HRIが1位の者)がもつ矢印の数は1~2本に留まる。トップリーダーと相互認知関係にある者が少ないということは、地域活動の様々な場面においてトップリーダーが中心的担い手にならざるを得ず、負担が集中する可能性がある。この場合、トップとその他のリーダーとの間での相互認知関係の構築が求められる。

成果の活用面・留意点

  • 事例分析の結果は、相互認知関係では点在・鎖・網目、分布状態では偏在・分散という基本的な各状態の組み合わせで、リーダーの存在構造が表現可能なことを示している。
  • 新たに住民を組織化する場面などで、働きかけるべきリーダーや想定される組織の範囲や規模といった情報が得られる。

具体的データ

図1 HRI の分布

図2 リーダー間の相互認知関係のソシオグラム

その他

  • 研究課題名:地域の条件を活かした水田・畑輪作を主体とする農業経営の発展方式の解明
  • 中課題整理番号:211a.4
  • 予算区分: 交付金プロ(地域管理)
  • 研究期間:2007~2009年度
  • 研究担当者:渡部博明、湯川洋司(山口大人文)、山下裕作
  • 発表論文等:渡部(2009)2009年度日本農業経済学会論文集:166-173