万願寺とうがらしの施設夏秋栽培でのアブラムシ防除におけるバンカー法の有効性

要約

万願寺とうがらしの夏秋栽培ハウスにバンカー植物としてソルガム、代替餌としてヒエノアブラムシ、天敵としてショクガタマバエを利用するバンカー法を導入することで、ムギ類を利用する従来のバンカー法に比べ、アブラムシ類の発生を抑制できる。

  • キーワード:夏秋栽培、とうがらし、バンカー法、アブラムシ防除、ショクガタマバエ
  • 担当:近中四農研・環境保全型野菜研究チーム
  • 代表連絡先:電話 0773-42-0109
  • 区分:近畿中国四国農業・生産環境(病害虫)
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

施設野菜栽培で問題となるアブラムシ類に対して、バンカー植物としてムギ類、代替餌としてムギクビレアブラムシ、天敵としてコレマンアブラバチを利用するバンカー法(以下、ムギバンカーと略)が実用化されているが、高温環境下ではムギ類が十分に生育しない恐れがある。また、春から秋にかけては二次寄生蜂類が発生し、効果が低下することがあるため、ショクガタマバエの利用が有望視されている。さらに、コレマンアブラバチは導入天敵であるため、わが国の生態系への影響が懸念されている。そこで、京都府舞鶴市において万願寺とうがらしの夏秋施設栽培を対象に、バンカー植物として耐暑性の強いソルガム、代替餌として高温環境下で高い増殖力を持つヒエノアブラムシ、天敵としてショクガタマバエの在来系統(京都府産)を利用するバンカー法(以下、ソルガムバンカーと略)を導入し、慣行のムギバンカー法との間で害虫アブラムシ類抑制効果を比較検証する。

成果の内容・特徴

  • ムギバンカーではコムギの枯死が早いため、ムギクビレアブラムシが維持されず、コレマンアブラバチも定着しないが(データ省略)、ソルガムバンカーではソルガムの葉が緩やかに枯死し、4ヶ月にわたってヒエノアブラムシが維持される(図1)。
  • ソルガムバンカー上では土着の寄生蜂類などが発生する(データ省略)が、バンカーの導入後2ヶ月間は、ハウス内でのショクガタマバエの密度が、接種的放飼において必要な1~2週間間隔で2頭/m2以上と同等の水準で維持される(図2)。
  • ムギバンカー導入ハウスでは万願寺とうがらし上でアブラムシ類(モモアカアブラムシあるいはワタアブラムシ)が増加して薬剤散布等の作業が必要となる(図3)。しかし、ソルガムバンカー導入ハウスでは、これらの作業が不要である(図3)。
  • 50頭以上のアブラムシが寄生した葉が1枚以上確認された株を要防除株とする場合、ムギバンカー導入ハウスでは要防除株の発見回数が多くなり、枝葉の除去や薬剤散布が必要となるが、ソルガムバンカーを導入すると、こうした処理が必要ない(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 日本在来系統のショクガタマバエは2011年1月現在、販売されていないため、本成果の活用にあたっては市販の海外産ショクガタマバエ(商品名:アフィデント、アリスタライフサイエンス(株))を利用する必要がある。
  • ショクガタマバエの活動適温は15~30°Cであり、ハウス内の最低気温が15°Cを下回る時期はバンカーへ定着しないため、無加温でハウス内の温度が低温となる時期はムギバンカーの利用など、他の対策が必要となる。
  • 本成果で試験を実施したハウスはいずれも万願寺とうがらしの定植時にイミダクロプリド粒剤を使用しているが、イミダクロプリド粒剤は、ショクガタマバエの幼虫、成虫の生存に影響を与えない。

 具体的データ

図1 ソルガムバンカー、ムギバンカーでのバンカー 植物の枯死葉の割合と代替餌であるアブラ ムシの個体数の推移

図2 ソルガムバンカーを導入したハウス(生産者A) におけるショクガタマバエの単位面積あたりの 密度の推移

図3 ソルガムバンカー導入ハウスおよびムギバンカー 導入ハウス(生産者A)における万願寺とうがらし 上の害虫アブラムシ類の密度の推移

表1 要防除株の発見回数および天敵利用以外の アブラムシ防除対策(薬剤散布、枝葉の除去 作業)の実施回数

その他

  • 研究課題名:中山間・傾斜地における環境調和型野菜花き生産技術の開発
  • 中課題整理番号:214u
  • 予算区分:基盤、実用技術
  • 研究期間:2008~2010 年度
  • 研究担当者:安部順一朗、熊倉裕史