深水栽培は水稲の茎のソース機能を増加させ白未熟粒発生を抑制する

要約

分げつ期に深水管理を行った水稲では、強勢茎と弱勢茎のいずれでも非構造性炭水化物(NSC)蓄積量と葉面積が増加する。その結果、1穂の着粒数が増加しても、茎のソース機能の向上がそれを上回り、白未熟粒の発生が減少する。

  • キーワード:イネ、深水栽培、白未熟粒、ソース機能、1穂籾数
  • 担当:作物開発・利用・水稲多収生理
  • 代表連絡先:電話 084-923-4100
  • 研究所名:近畿中国四国農業研究センター・水田作研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

水稲の分げつ期に湛水深を増加させる深水栽培は、過剰分げつの発生を抑制して有効茎歩合を高め、強勢茎を中心とした穂の構成とする。また、株全体でみると、籾に対するソース機能を増加させて白未熟粒の発生を減少させるが、分げつ構成の違いが、個々の茎のソース機能に及ぼす影響は不明である。そこで、深水管理および慣行水管理で水稲を栽培して、強勢な主茎と、弱勢な最上位1次分げつおよび2次分げつ(慣行栽培のみ)を用いて、ソース機能の指標である葉鞘・稈の穂揃期NSC量、および登熟期の光合成に関係する葉面積を測定し、茎のソース機能と白未熟粒発生の関係を解析する。

成果の内容・特徴

  • 慣行栽培では、弱勢な2次分げつの白未熟粒割合が、強勢な主茎に比べて低い(表1)。これは、2次分げつでは1穂籾数が少ないために、品質が低下しやすい2次枝梗籾の割合が低いことによると考えられる。また、深水栽培により、茎の次位に関わらず、白未熟粒の発生が減少する。
  • 深水栽培と慣行栽培のいずれでも、強勢茎ほど茎あたりのソース機能(NSC量、葉面積)が多く、1穂籾数は大きい(図1)。
  • 深水栽培により、茎のNSC量と葉面積が増加するが、これらの増加率に比べて1穂籾数の増加率は小さいため(図1)、深水栽培では、慣行区に比べて籾あたりのソース機能(NSC量、葉面積)は増加する(図2)。
  • 以上より、深水栽培では1穂籾数が増加するが、茎のソース機能がそれ以上に増加するため、弱勢茎と強勢茎のいずれでも籾あたりのソース機能は高く保たれる。つまり、深水栽培では各茎のソース機能が向上したために、1穂籾数の増加により品質が低下しやすい2次枝梗籾割合が増加しても、白未熟粒の発生が減少すると考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 本研究では、新潟県上越市で、分げつ盛期から最高分げつ期にかけての約20日間に水深18cmの深水管理を行った。
  • 品種「初星」の結果を示したが、「コシヒカリ」でも、概ね同様の結果が得られる(発表論文参照)。

具体的データ

表1、図1~2

その他

  • 中課題名:水稲収量・品質の変動要因の生理・遺伝学的解明と安定多収素材の開発
  • 中課題整理番号:112b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2007~2011年度
  • 研究担当者:千葉雅大、寺尾富夫、松村 修
  • 発表論文等:千葉ら(2013)日作紀、82(3):223-232