中山間地域の農産物直売所が売上向上を図るビジネスモデル「出張直売」

要約

出張直売は、農産物直売所が定期的に都市部に出向き、仮設店舗で直接販売するビジネスモデルである。出張直売自体の収支はほぼ均衡し、その売上は出荷者の収入増に貢献し、高齢者を中心とする都市部住民には新鮮な農産物の購買機会を提供する。

  • キーワード:出張直売、農産物直売所、中山間地域、売上向上、ビジネスモデル
  • 担当:経営管理システム・ビジネスモデル
  • 代表連絡先:電話 084-923-4100
  • 研究所名:近畿中国四国農業研究センター・営農・環境研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

これまで農産物直売所(以下、直売所)は、農村部に店舗を開設し、農村を訪れる都市住民や観光客に新鮮、安心・安全な農産物が低価格で購入できるという顧客価値を提供してきた。しかし、近年は多数の直売所が開設され、中山間地域に立地する直売所は来店者の伸び悩みと売れ残りの問題に直面している。そこで、店舗外に新たな顧客を開拓することで売上向上を図る直売所のビジネスモデルとして「出張直売」方式を提案する。

成果の内容・特徴

  • 店舗外販売は、直売所の約8割が取り組み、全売上高の約3割を占め、今日では一般的な販売活動である。出張直売も店舗外販売の1つであるが、取り組んでいる直売所は1割にとどまる。しかし、出張直売に取り組む直売所のほとんどは中山間地域に立地し、中山間地域の直売所に適した売上向上のビジネスモデルとして期待できる(図1)。
  • 出張直売の特徴は、直売所の運営者や出荷者自らが、農産物や農産加工品を定期的に自動車で都市部に運搬し、商店街などにテントなどで仮設店舗を設営して、都市部住民と対面して直接販売することにある。1つの直売所が複数の都市部で開設する例も珍しくない。最小構成の軽自動車1台の場合、2人で最大14万円相当の商品を運搬でき、テント1張で販売する。量が増えれば、車の積載量や台数、テント数で調整する(図2)。
  • 運搬した商品の内、約10万円分を売り上げ、設営の場所代が低額であれば、出張直売の粗利益と経費合計はほぼ均衡する(表1のB1が典型)。出張直売は直売所の利益には結びつかないが、店舗に置いたままでは売れ残るかもしれない農産物が売れ、出荷者の収入増(表1の仕入原価)に貢献する。週1回定期的に開設すれば、年間の売上高が約5,000万円の中規模の直売所にとって1割の売上向上となる。
  • 商店街や住宅街の主な顧客は、周辺に居住する60歳代以上の高齢女性である(約7割)。顧客は、出張直売を「新鮮でおいしい野菜や物があり、買えて、良いと思います」と肯定的に評価する(図3)。出張直売は、農村部に所在する直売所店舗を訪れにくい都市部の高齢者に、新鮮な農産物を購入できるという顧客価値を提供する。

成果の活用面・留意点

  • すでにイベント販売、移動販売、インショップなどの店舗外販売を実施していても、出張直売との併用は可能であり、岡山県で出張直売をする8店舗の6店舗が併用する。
  • 開設当初は、設営場所の通行量の変化、出荷者の車の一時利用、繁閑に合わせた役員の応援などで粗利益と経費を順次見極めることで、収支が赤字にならないよう留意する。

具体的データ

図1~3、表1

その他

  • 中課題名:地域農業を革新する6次産業化ビジネスモデルの構築
  • 中課題整理番号:114b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2013年度
  • 研究担当者:室岡順一
  • 発表論文等:室岡(2013)農林業問題研究、49(1):166-171