広域連携周年放牧を支援する技術マニュアル

要約

生物資源モニタリングの活用により放牧地・放牧牛を適切に評価・判断することを通して、広域地域間の連携による繁殖和牛の周年放牧ができ、環境負荷軽減、更なる低コスト飼養、耕作放棄地の積極的活用を図るためのマニュアルである。

  • キーワード:黒毛和種繁殖牛、放牧地・家畜管理、放牧期間延長、環境影響評価、経営評価
  • 担当:自給飼料・利用・高品質牛肉生産
  • 代表連絡先:電話 0854-82-0144
  • 研究所名:近畿中国四国農業研究センター・畜産草地・鳥獣害研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

中国山地や日本海側では、冬季の放牧や飼料作栽培が制約され周年放牧が困難である。瀬戸内海側沿岸部は、冬季牧草の生産適地であるが耕作放棄地も多い。繁殖和牛の放牧飼養は省力的な低コスト生産と耕作放棄地の再生手段として、家畜飼養経験のない集落法人からも注目されている。広域地域間の生産者の連携により繁殖和牛を年間を通じて移動させる広域連携周年放牧が、更なる低コスト、耕作放棄地解消、環境負荷軽減に有効である。そこで、生産者と普及組織が一体となって取り組むための技術マニュアルを作成する。

成果の内容・特徴

  • 本マニュアルは、生物資源モニタリングを活用して放牧地・放牧牛を管理するための技術に関する項目を中心に構成している。また、広域連携周年放牧の導入検討の判断材料となる飼養管理形態ごとの環境影響評価ならびに集落営農法人において広域連携周年放牧を導入することを想定した経営評価試算などの情報も掲載している。
  • 衛星画像やラジコン機で放牧前に広範囲な放牧可能地の探索と放牧中の粗飼料資源量変化を把握でき、放牧中にはそしゃくセンサーでそしゃく行動を無線モニタリングし牛の生産性低下を回避するとともに転牧適期を判断できる。また、遠隔監視システムで牛の所有者が遠隔地から牛の栄養状態や放牧地の状態を評価・判定できる(図1)。
  • 積雪の少ない比較的温暖な地域では、ススキ優占草地で晩秋季以降にも放牧により十分な採食量と養分摂取が見込める(図2)。ソルゴーを6月に播種し立毛貯蔵すると、晩秋季以降でも牧養力、嗜好性は高く3月まで利用可能である(図3)。また、夏作に青葉ミレットでストリップ放牧、冬作にえん麦、大麦、イタリアンライグラスを混合栽培し、高い牧養力を維持することで、広域連携での冬季放牧、周年放牧が可能である。
  • 農家調査データに基づくライフサイクルアセスメント(LCA)により、周年放牧、耕作放棄地を利用した季節放牧、周年舎飼の各飼養管理形態を比較すると、冬季の放牧地として野草地を利用した周年放牧で環境負荷が最も小さいと評価され、広域連携により耕作放棄地の利用頻度を高めると、環境負荷を低減することが可能となる(図4)。
  • 集落営農法人の調査に基づき、経営モデルの収益性試算を行うと、広域連携周年放牧を導入した場合、繁殖和牛所有法人では飼料費、労働費の負担が大幅に軽減され、受入法人では放牧受入収入により、経済的有利性が見込まれる。

成果の活用面・留意点

具体的データ

図1~4

その他

  • 中課題名:飼料稲や牧草等の多様な自給飼料資源を活用した高品質牛肉生産技術の開発
  • 中課題整理番号:120d4
  • 予算区分:交付金、実用技術
  • 研究期間:2010~2012年度
  • 研究担当者:山本直幸、高橋佳孝、堤道生、福島成紀(岡山畜研)、新出昭吾(広島畜技)、弓場憲生(広島西部工技)、菊川洋一(広島畜協)、脇本雄樹(山口畜技)、嶋屋晋(山口農林)
  • 発表論文等:1)堤(2013)日草誌、59(3):221-225