施用肥料中の塩化物イオン量が多いと小麦子実カドミウム濃度が高まる

要約

塩安は塩化物イオンを多く含むため、塩安入り肥料を施用すると尿素や硫安を施用した場合より小麦子実カドミウム濃度が高まる。したがって、小麦子実カドミウム濃度低減のため、窒素成分としては尿素または硫安を用いることが望ましい。

  • キーワード:コムギ、カドミウム、肥料、塩安、塩化物イオン
  • 担当:新世代水田輪作・中小規模水田輪作
  • 代表連絡先:電話 084-923-4100
  • 研究所名:近畿中国四国農業研究センター・水田作研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

小麦子実カドミウム(Cd)濃度の国際許容基準は0.2mg/kgに設定されており、国内基準は設定されていないものの、食の安全性の観点から可能な限り低減させることが望ましい。塩類集積などにより土壌中の塩化物イオン(Cl)が増えるとCdの土壌への吸着が弱まり、植物のCd吸収が増えることが知られているので、塩安施肥が子実Cdに与える影響を明らかにし、子実Cdの低減を図る。

成果の内容・特徴

  • 塩安または塩安入り肥料(NK化成Cなど)を施用すると、尿素や硫安を施用した場合と比較して子実Cdが高まり(表1、図2)、肥料中のCl量が多いほど子実Cdが高くなる(図1)。したがって子実Cd低減のため、窒素成分としては尿素または硫安を用いることが望ましい。
  • 降水量の少ない瀬戸内地域では、塩安の施用時期が初期、2-3月、開花期のいずれであっても、塩安施用により子実Cdが高まる(表1、図2)。
  • 塩化カリ(塩加)も塩安と同じくClを含むが、通常の施肥量においては塩加のCl量は塩安と比べて少ないため、塩加の子実Cdへの影響は小さい(表1)。
  • 4品種系統(「せときらら」、「ミナミノカオリ」、「中国160号」、「中国162号」)のいずれにおいても、施用肥料中のCl量が増えると子実Cdが高まり、品種特異性はない(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 本研究は、降水量が少ない近中四農研(広島県福山市)の灰色低地土水田(0.1M HCl抽出土壌Cdは0.11~0.19mg/kgで、日本の非汚染圃場で平均的な濃度)で水稲作後に実施し、Cdは添加していない。降水量が多いとClが流亡して塩安の影響が小さくなると考えられる。また、土壌が異なれば、塩安の影響の大きさが異なる可能性がある。
  • 近畿中国四国地域の一般的な施肥体系で塩安入り肥料が用いられることがあるのは2-3月追肥のみであり、子実Cdが国際許容基準を超えることは稀である。

具体的データ

図1~3,表1

その他

  • 中課題名:中小規模水田に対応した生産性向上のための輪作システムの確立
  • 中課題整理番号:111b4
  • 予算区分:交付金、その他外部資金(その他)
  • 研究期間:2010~2014年度
  • 研究担当者:石川直幸、石岡厳、谷中美貴子、高田兼則、村上政治(農環研)
  • 発表論文等:Ishikawa N. et al. (2015) Plant Prod. Sci. 18(2):137-145