研究者行動規範

農研機構は、優れた研究成果を創出し、これを社会に還元することにより、食料・農業・農村が直面する問題を解決し、国民が期待する社会の実現に貢献することをミッションとしている。

本行動規範は、農研機構の研究者が、社会からの信頼を得つつ、研究活動を通じて農研機構のミッションを達成するため、研究者個々の自律性に基づく責任ある行動を確保するための行動の拠り所となるよう制定するものである。

基本的使命

1.農研機構のミッション達成への貢献

国内外の様々なパートナーと健全かつ透明な関係を構築し、食料の安定供給、食の安全性の確保、農業・農村の活性化、循環型社会の形成など、食料・農業・農村を取り巻く課題に的確に対応した研究に取り組み、その成果を社会に対し積極的に還元することにより、21世紀の豊かな日本社会の実現に貢献する。

2.不断の改善による研究の質の向上

常に自身の研究を評価・点検し、適切な改善を施すことによって研究の質の向上に努める。

3.専門家としての責任と自己の研鑽

研究の専門家として、自らが創出する学術的知見や技術の質に対して責任を有することを自覚し、常に最善の判断と行動を行えるよう自らの専門的知識、能力、技能の維持向上に努める。

4.研究の説明と公表

自身の研究の意義と役割を国民に積極的に説明するとともに、国民生活や社会、環境に及ぼす影響や起こり得る変化を公正かつ誠実に公表する。

5.国民から信頼される研究活動

諸法令や社会規範を遵守するとともに、環境保全や生命倫理に適切に配慮し、常に国民から信頼される研究活動を行う。

6.公正な研究環境の確立と維持

責任のある研究を行うことのできる公正な研究環境の確立と維持に努めるとともに、ひとりひとりの個性や能力を尊重し、それを伸ばす職場環境を創り出す。

具体的な行動の規範

1.研究の立案

経済社会の変化や科学技術の動向など、研究を取り巻く環境の変化を的確に捉え、農研機構のミッションに照らして自らの果たすべき役割は何かを明確にし、具体的な達成目標とそのために実施すべき課題を設定して研究に取り組む。

2.研究の遂行

(1)研究費の公正な申請と適切な管理

研究費の主たる原資が国民の税金であることを常に意識し、研究費の適正な管理と効果的・効率的な執行に努める。研究計画の申請に当たっては、業績のねつ造や、誇大な成果を掲げることなく、真実に基づく誠実な記述を行う。また、研究費の使用に当たっては、関連する諸規則を遵守し、申請した研究計画から逸脱した目的には使用しない。知的財産権の取扱いや秘密の保持、成果の公表等について、委託契約事項を遵守する。

(2)研究データの取扱いと管理の重要性

農研機構の業務として得られた研究データ等の研究成果等は農研機構に帰属することから、みだりに外部に持ち出したり、外部の者に使用させることなく、適正に管理する。また、共同研究先の研究成果等の保護についても十分に配慮し、法令や守秘義務等で持ち出しが許可されていない研究成果等の外部研究機関からの持ち込みや、違法な手段での入手を行わない。

(3)情報の適切な取扱い

研究のために収集・生成した資料やデータ、その他研究遂行上知り得た情報については、適正かつ安全に管理し、守秘すべき情報を明確に意識・把握し、秘密保持を徹底する。個人に関する情報の提供を受けて研究を行う場合は、提供者に対してその目的、収集方法について分かりやすく説明し、提供者の明確な同意を得る。業務情報を外部に持ち出す場合は所定の手続きをとるとともに、パソコンや記録媒体の紛失、ウイルス感染等の事故を発生させないよう適切な対策を講じ、情報セキュリティの確保に努める。

(4)環境・安全・生命倫理等への配慮

施設・機械・装置、薬品等の使用に際しては、取り扱い方法、関連法令・規程等を遵守し、薬品等の最終処理まで含め安全と環境に配慮した管理を行う。特に、放射性物質、毒物・劇物、麻薬・向精神薬、病原体など、人の生命・健康に危害を及ぼすおそれのある物質等については、法令等に基づき厳正に取り扱う。また、遺伝子組換え生物の管理等について法令等を遵守するとともに、動物実験の実施については、動物の愛護と生命尊重の観点に立ち、動物の飼養・保管や苦痛の軽減等に関する法令・基準等の規定に基づき適正に実施する。

3.成果の公表

(1)研究上の不正行為の防止

研究成果の発表、報告に際しては、ねつ造、改ざん、盗用等の不正な行為や、これに加担する行為を行わない。実験ノート等の研究記録は、事後の検証が行えるよう適切に保存する。また、研究グループ内で生データに基づく議論を日常的に行い、不正行為を未然に防ぐ研究環境の整備に努める。

(2)論文等への発表

研究の成果を研究者コミュニティで共有するとともに、広く社会に還元するため、研究成果については、特許の取得等の合理的な理由による制約がある場合を除き、積極的に発表する。研究成果のオリジナリティを尊重し、同じ研究成果の重複発表やオーサーシップの誤用を避けるとともに、先行研究に十分な注意を払い、適切な引用を行う。

(3)学会等における発表

研究成果の公表に際しては、データや論拠の信頼性の確保に十分留意し、正確かつ分かりやすい情報の提供に努める。また、行政や業界、消費者等に対して大きな影響を与える可能性がある内容については、関係機関に事前に連絡するなど、適切な対応を行う。委託契約や共同研究契約等によって成果の公表が制限されている場合には、所定の手続きを経てから公表す
る。

(4)研究活動の国民への説明

科学技術や研究活動が国民に正しく理解され、信頼を受け、支持されるよう、多様な媒体を効果的・効率的に活用して、研究内容や成果を社会に対して分かりやすく説明する。マスコミからの取材に関し、取材内容が政策に係わるものや、社会的影響が大きい事案等については、組織として適切に対応する。

4.成果の社会還元

研究の成果を円滑に社会・国民に還元するため、共同研究や技術移転等を通じた産学官連携活動に積極的に参加する。特許、育成者権等の知的財産権の取得、活用に努めるとともに、第三者の知的財産権を尊重する。産学官連携活動においては、農研機構の職務と個人的利益との間に利益相反による疑義を生じさせ、社会的信頼を損なうことがないよう適切に対処する。

5.研究の評価と改善

(1)研究の評価と改善

研究計画の進捗状況や研究終了後における研究成果について、自ら厳正に点検・評価し、研究の進展や、研究の質、自らの意欲と資質・能力の向上に努める。また、外部評価を受ける場合は、評価者の意見、助言等を真摯に受け止め、今後の研究の改善に反映させる。

(2)審査等への参加

研究者集団の一員として、投稿論文の審査等の相互評価に積極的に参加する。他者の研究成果を評価する場合には、恣意的な視点を混入させず、専門家として公正で公平な評価を行う。また、審査等によって知り得た情報を不正に流用したり漏洩することなく厳正に取り扱う。

6.良好な研究環境の確保

健全かつ公正な研究環境を維持するため、職場内の意見交換を活発に行い、自由、公平、透明性、公開性の担保された職場環境を確立する。男女共同参画をはじめとして、お互いの個性や能力を尊重した行動をとるとともに、性別・年齢・地位・国籍・信条・宗教・疾病・障害等による差別や不当な取扱い、セクシュアル・ハラスメントやパワー・ハラスメントなど、相手の人格と尊厳を侵害するような言動を行わない。