プレスリリース
高速作業が可能なトウモロコシ用不耕起播種機を開発

- 30PS級トラクターで高速播種 -

情報公開日:2012年2月 7日 (火曜日)

ポイント

  • 30PS級のトラクターでトウモロコシの不耕起播種が可能です。
  • 慣行の耕起栽培でも利用可能です。
  • 2m/sの速度で高精度な1粒播種作業ができます。

概要

農研機構 生研センターでは、アグリテクノ矢崎(株)と共同で、トウモロコシ用不耕起播種機(以下、「開発機」)を開発しています。

開発機は、種子を高速に繰出すことができる新開発の種子繰出装置を搭載しており、トウモロコシを作業速度2m/sで播種することが可能です。新たな機構と軽量化により、30PS(22kW)程度のトラクターで作業が可能で、不耕起ほ場と耕うん整地ほ場の双方に播種することができます。平成24年度中の市販化を目指しています。

関連情報

予算:運営費交付金

特許等:特開2011-193831

国際公開番号 WO2011/118472 A1


詳細情報

開発の背景と経緯

青刈りトウモロコシ(以下、「トウモロコシ」)の不耕起栽培は、慣行の耕起栽培と収量が変わらず、作業が集中する播種時期の耕うん整地作業を省略できるなどメリットが大きいものの、その普及は伸び悩んでいます。その要因として、我が国で利用されている海外製の不耕起播種機が大型で重く、小規模なほ場には適していないことが挙げられています。

そこで、農研機構 生研センターでは、アグリテクノ矢崎(株)と共同で、小型トラクターに装着でき、作業速度が速く、不耕起栽培に対応するトウモロコシ用播種機の開発を進めています。

開発機の概要および性能

  • 開発機(図1)は、新たに開発した高速種子繰出装置および高速種子土中定着機構を組み合わせた構造です(図2、表1)。
  • 高速種子繰出装置は、種子を高速時でも1粒ずつかつ一定方向に繰出すことができます。同装置は、種子貯留ホッパ内の種子を1粒ずつ分離するため外周に16個の切り欠きを配置した種子分離プレートと、分離した種子を装置の最下端から放出するプレートで構成されています。種子分離プレートと放出プレートは、仕切り板を挟んで同軸で同方向に回転することで種子繰出しを行う構造です。種子分離プレートは種子の大きさに応じて交換します(図3)。
  • 高速種子土中定着機構は、ほ場表面に切り込みを入れるディスクコールタと溝拡幅部が直列にほぼ接する状態で配置され、残渣の影響を受けにくい構造です。また、溝拡幅部で広げた溝に種子誘導スリットを通過した種子が播種され、鎮圧輪によって覆土鎮圧する構造です。溝拡幅部の先端は、前進時に地中に入りやすい形状で、後部の鎮圧輪によって地中への過剰な食い込みを制御し播種深度を安定させます。
  • 開発機は、22kW(30PS)のトラクターに装着しトウモロコシ種子を株間19cm、作業速度2m/s程度で播種する場合でも、全繰出回数に対する1粒繰出回数の割合(以下、「1粒率」)は概ね98%以上です。
  • 開発機は、不耕起ほ場において、石がなければ作業速度2m/sでも欠株の少ない播種が可能です。株間のばらつき(標準偏差)は、作業速度にかかわらず不耕起ほ場でも耕うん整地ほ場でも問題のない値です(表2)。平均播種深さは、ほ場および速度による差は小さく35~40mm(標準偏差5~11mm)です。また、20a(20×100m)ほ場での作業能率は64a/hです。

活用面と留意点

  • 全国のトウモロコシ生産地に普及予定です。
  • 種子分離プレートは種子の大きさに合ったものを選ぶ必要があります。
  • 石があるほ場では、作業速度を落とす必要があります。

今後の予定

平成24年度中の市販化を目指します。

用語の解説

青刈りトウモロコシ

飼料用のトウモロコシ。細断収穫後に梱包密封して乳酸発酵させたサイレージにして給餌させることが多い。

不耕起栽培

水田や畑を耕さないまま農作物を栽培する農法。省力化が可能である(トラクターによる耕起が不要)などのメリットがある。

図1 開発機による不耕起ほ場での播種作業、表1 開発機の主な仕様図2 開発機の構成、図3 開発機に搭載されている高速種子繰出装置、表2 開発機の作業速度と1粒率・株間との関係図4 残渣が残る不耕起ほ場での出芽状況、図5 耕うん整地ほ場での出芽状況