プレスリリース
ナガイモの種イモ高速切断技術の開発に道筋

- 処理能力の高い試作機を開発 -

情報公開日:2013年2月12日 (火曜日)

ポイント

  • 多大な労力と熟練を要する種イモ切断作業を自動化
  • 簡易センサと形状認識による瞬時のデータ処理と同時切断で無駄のない種イモ切断
  • 慣行作業の2倍以上の2~2.5トン/日の作業能率で省力化を達成

概要

農研機構 生研センターでは、北海道や青森県などで収益性の高い輪作作物であるナガイモにおいて、労働時間の多くを占める種イモ生産のうち、家族労働に加えて雇用労働を使い、さらに熟練を要する種イモ切断作業について、機械化を通じた作業人員の大幅な削減による低コスト生産を目指しています。

この度、長尺物であるナガイモを自動切断して播種用の種イモを省力的に生産する装置の試作機を開発しました。試作機は、簡易センサと形状推定モデルを用いて、残片が出ないよう最適サイズに切り分ける位置を自動で決定し、1本まるごとを複数切片に同時切断します。

本技術の実用化によって、雇用労働に依存していた種イモ生産を省力化でき、低コストなナガイモ生産に大きく貢献します。

なお、本技術は種イモの生産の他、ナガイモのカット流通にも応用の可能性があります。

関連情報

予算:運営費交付金

共同研究機関:帯広畜産大学、三菱農機株式会社

特許:特願2013-22921


詳細情報

開発の背景と経緯

  • わが国は、現在、官民挙げて総合的な輸出戦略の推進に取り組んでいます。その中で、ナガイモはわが国の農産物輸出の中でもその規模(平成22年ベース生鮮野菜の全輸出額の74%)と輸出体制において稀有な成功事例の一つであり、今後も輸出量の増加が期待される作物です。
  • 国内のナガイモ生産量は青森県と北海道が全国の8割以上を占めており、いずれの産地においても機械化栽培による生産拡大が行われています。しかし、播種用の種イモ生産は包丁を用いた人手作業によるもので、30人・h/10aもの投下労働時間(全体の3割以上)を占めています。また、高コスト(約380円/kg)な種イモを作付規模に見合った適切な量で、かつ無駄なく均一な重量の適正サイズに切断することが生産コストを低減し、収量性を高めることから、当該作業の機械化に対して高いニーズがあります。

  • そこで、平成23年度から、主産地(北海道帯広市、芽室町、音更町)での慣行的な種イモ生産の現状調査を実施し、機械に求められる性能を把握してきました。23年度後半には試作機の原型を上記産地に持ち込み、デモ等を通じて生産者や農協関係者等と意見交換を行いました。こうして得られた要望等を踏まえて、24年度は色々な大きさのナガイモに対して簡便・低コストな方法で形状測定して、瞬時に複数の種イモ(切片)を精度良く同時切断する試作機を製作しました。

試作機の概要

  • 装置は、形状を測定するステージと測定結果に基づいて複数の切片に同時切断するステージから構成されます。手順として、切断する部位毎の重量基準値(例:肩部=70g、胴・尻部=120g)を予め入力し、この値に沿って以下の動作を実行します。

  • 測定ステージでは、ナガイモの任意の2点の外径とイモ長を測定し、構築した統計モデルに測定値を適用することによりナガイモの形状と重量を推定し、残片が発生しないように前記基準値に概ね沿った切片重量になるよう、切断位置を決定します。

  • 切断ステージは、一定間隔で配置した多数の切断刃を装備しています。手順は、1上記2.で決定された切断位置に対応する切断刃のみを上向きに配置し、2その上にナガイモを載せ、3プレートを上から押し付けることにより、1本まるごとを複数の切片に同時切断します。

  • 上記の構成により、ナガイモの大きさにかかわらず1本当たり約15秒で切断作業を完了します。また、切片の重量は概ね基準値に近似し、そのバラつきは平均値の約15%と慣行的な手作業(11~30%)と比べて同等以上の精度を得ることができます。

今後の予定

上記により、現地生産者から要望のあった1日当り2~2.5トンの処理能力が達成でき、従来4人必要だった労力を半減することができます。今後は、現地生産者や農協等との連携を密にしながら、実用機に向けて切断機構の更なる処理能力と耐久性の向上を目指して開発改良を進めます。

用語の説明

ナガイモの種イモ生産: 繁殖作物であるナガイモは25mm太さ(首部)で切り落とされ、残った部分(イモ長)が種イモとして利用されます。下図のように、先端から肩部、胴部、尻部に分類されます。肩部は、胴・尻部に比べて催芽過程や植付け後の生育が旺盛なため、切断後の管理は肩部と胴・尻部に2種類に仕分けて行われます。なお、切断後の催芽に1ヶ月以上要するため、切断作業は速やかに完了させる必要があります。

図1 ナガイモの切断調製の流れ: 慣行作業体系から省力的な機械作業へ図2 ナガイモの種イモ切断装置の概観と処理後の切片