プレスリリース
定置型のイチゴ収穫ロボットを開発

情報公開日:2013年6月 4日 (火曜日)

ポイント

  • イチゴの栽培ベッドが移動する装置との組合せにより定置型を実現
  • 定置型にすることにより収穫ロボットの低コスト化を実現
  • 遮光により、昼間でも果実の判別が可能となり、稼働時間の拡大を達成

概要

農研機構 生研センターでは、イチゴの全労働時間の1/4程度を占め規模拡大の隘路になっている収穫作業について、その自動化に取り組み、移動型のイチゴ収穫ロボットの開発を進めてきました。その知見を活かし、この度イチゴの栽培ベッドが循環移動する装置(以下、循環式移動栽培装置)に対応して、定位置で自動収穫を行う定置型イチゴ収穫ロボットを開発しました。

循環式移動栽培装置と組み合わせたロボットシステムは、画像処理で横移動中の栽培ベッドから赤色果実を探索して栽培ベッドを停止させ、収穫適期の果実のみを摘み取ります。周囲が明るすぎると判別精度が下がるため、移動型では昼間の収穫は困難でしたが、定置型では遮光が可能であることから、果実周辺の遮光により昼間の収穫が可能となりました。ロボットは赤く熟した果実のうち4~7割の果実を収穫して、作業の省力化とロボットの稼働時間の拡大を達成しました。

本技術の実用化によってイチゴの収穫作業を省力化できることに加え、循環式移動栽培装置との組み合わせにより、定植から栽培管理、防除、収穫作業がシステム化され、イチゴの大規模生産技術の構築に寄与します。

本装置は、今後現地実証試験を経て平成26年度からの販売を目指します。

関連情報

予算:運営費交付金

参画企業:シブヤ精機株式会社、愛媛県農林水産研究所

特許:特願2004-222864、2012-042499、2010-260547、2010-260548、2010-260549


詳細情報

開発の背景と経緯

  • わが国のイチゴの産出額はおよそ1500億円で、単価も高値安定しており産地の基幹作物になっています。促成栽培では、一季成り品種*1を9月に定植して、収穫が12月から翌年の5月頃まで続きます。この栽培期間中に必要な労働力は約2000時間/10aで、そのうち収穫作業が23%を占めます。
  • 収穫作業の自動化を目指して、これまで移動型のイチゴ収穫ロボットを開発し、対象果実のうち5~6割程度を夜間に収穫できることを実証したものの、ロボットのコストダウンが大きな課題として残っていました。一方、同時期に開発したイチゴの循環式移動栽培システムは、慣行栽培の2倍程度の密植が可能で、定植から栽培管理、収穫を定位置で行える特長があります。
  • そこで、平成23年度から既存イチゴ収穫ロボットの技術と循環式移動栽培装置を連動させ、機構の単純化によるコストダウンを図るとともに、収穫を定位置で行えるシステムの開発に着手しました。また、昼間では周囲が明るすぎて赤色果実の判別精度が低下する問題がありましたが、24年度には果実周辺の遮光と昼間動作プログラムを組み込んだ定置型イチゴ収穫ロボットを開発し、これによって稼働時間が拡大しました。

開発の概要

  • 定置型イチゴ収穫ロボットは、循環式移動栽培装置の横移送ユニット中央に配置しました。本開発に用いた循環式移動栽培装置は長さ3.6mの栽培ベッドを16台搭載できます(図1、図2、表1)。
  • 本ロボットは、マニピュレータ*2、マシンビジョン*3、エンドエフェクタ*4およびトレイ収容部から構成されます(表1、図3)。マシンビジョンをエンドエフェクタから独立させることで、採果後すぐに果実探索ができタイムロスを削減しました。栽培ベッドの横移送中に赤色果実の有無を走査し、検出すると、栽培ベッドを一時停止させエンドエフェクタ搭載カメラで着色度判定と果実の重なり判定を行います。収穫条件を満たせば、果柄を切断して採果を行います。果実が未熟であったり重なりがあったりすると、栽培ベッドを移送させ撮影角度を変えて再度判定し、条件を満たせば採果します。
  • イチゴ果実の大きさや形状、着果状態は収穫時期により大きく変化します。これに対応するため、マシンビジョンアプリケーションには慎重モードと積極モードを組み込みました。慎重モードは果実の重なり判定を厳しくすることで、未熟果の誤収穫を低減できます。一方積極モードは少しでも多くの果実を収穫したいときに適します。また、収穫ロボットが昼間に動作するアプリケーションも備えていて、動作範囲を遮光するなどの対策でロボットの稼動時間の拡大が図れます。1~3月における性能試験において、収穫成功率は、およそ40~70%でした。また、時間当りの処理面積は20~40m2でした。

今後の予定

今後、収穫ロボットの連続収穫試験を行ってデータの蓄積を図ります。また、動作の安定性や耐久性についても調査します。特に昼間動作の安定性向上を図り、平成26年度の実用化に結び付ける予定です。

用語の説明

一季成り品種:一年のうちの限られた時期(12月~5月頃)にだけ果実のなる品種。とちおとめ、あまおう、紅ほっぺ、女蜂、章姫等。

マニピュレータ:人間の手や腕に代わって作業を実行する機械部分。

マシンビジョン:人間に代わって特定用途の目視検査をするシステム、画像処理技術など。

エンドエフェクタ:マニピュレータの先端に取り付けて、人間の指先に代わって作業を実行する機械部分。

図1 定置型収穫ロボットと循環式移動栽培装置の配置