プレスリリース
過熱水蒸気を利用した水稲種子消毒装置を開発

- 約5秒の加熱で温湯消毒と同等以上の効果 -

情報公開日:2014年11月26日 (水曜日)

ポイント

  • 高温高湿度空気で連続的に水稲種子を処理する装置です。
  • 約5秒の加熱で、温湯消毒と同等以上の消毒効果を発揮します。
  • 温湯消毒で必要な、脱水や数時間に及ぶ乾燥の工程が不要です。

概要

農研機構生研センターと株式会社山本製作所は、農業機械等緊急開発事業(以下、緊プロ事業)において、高能率な水稲種子消毒装置を開発しました。開発した装置は、過熱水蒸気と高温空気を混和した高温高湿度空気を水稲種子へ曝露することによって、種子伝染性病害虫を温湯消毒(60°C-10分)と同等以上に消毒します。

加熱時間が約5秒と短く、加熱後の種子の冷却と乾燥も連続的に行います。そのため、温湯や薬液による浸漬消毒で必要な脱水・乾燥の後処理も必要なく、高能率な作業体系を実現できます。さらに、麦類種子での消毒効果も確認されつつあり、広い用途での種子消毒への貢献も期待されます。

今後、実栽培規模での効果の検証を行い、装置の実用化を目指します。

なお、12月に現地検討会を開催する予定です。

関連情報

予算:運営費交付金

特許:特開2012-55259、特開2013-202024

詳細情報

開発の背景と経緯

近年、温湯消毒の装置が半自動化または完全自動化され、現場に普及しつつありますが、温湯消毒の普及率は平均10%程度です。その中で特に種子センターのような大量処理を必要とする施設においては、温湯消毒後に脱水(約5分)、乾燥(数時間)の作業が必要となります。温湯消毒装置単体では、1時間あたり最大2トンの水稲種子を処理できる大型の機械が存在するものの、その後の脱水、乾燥が追いつかないため、作業体系全体としての能率が悪く、導入が進まない実態があります。また、種子の貯蔵性が悪いと言う指摘もあります。そこで、農研機構生研センターと株式会社山本製作所は、緊プロ事業として平成23年度から過熱水蒸気を利用した高能率な種子消毒装置の開発に着手し、このたび実用化の見通しを得ました。本年度までに4回にわたる装置の試作と各試作機での防除効果試験を繰り返し、開発改良を進めてきました。また開発中は、蒸気の取扱いに関するノウハウを有する大阪市立大学に基礎試験および実用化に対するアドバイス等の協力を得ました。さらに、様々な種子伝染性病害に対する防除効果の評価について、山形県農業総合技術センター、埼玉県農林総合研究センター、石川県農林総合研究センター、富山県農林水産総合技術センター 農業研究所、島根県農業技術センター、広島県立総合技術研究所 農業技術センター、東京農工大学の協力を得ました。

開発機の概要および性能

  • 本装置(図1、表1)は加熱媒体として、過熱水蒸気と高温空気を混和した高温高湿度空気を使用します。高温高湿度空気は水稲種子の表面で凝縮し、病原菌の潜む籾殻近傍を温湯よりも高温で湿熱処理することができます(図2)。また、温湯や薬液による浸漬消毒法と比べ、処理後の脱水・乾燥の大幅な省力化ができます。
  • 薄く広げた状態で搬送される水稲種子に、高温高湿度空気を曝露することによって、水稲種子を均一かつ連続的に加熱処理します(図2)。高温処理であるため、加熱時間は短く5秒程度(品種により多少変動)です。
  • 加熱処理後の種子を通気性の保てるネットコンベヤ上に薄く広げた状態で搬送し、冷却・乾燥を行います(図2)。装置排出時の水稲種子は乾燥した状態ですので、後処理も必要ありません。
  • 罹病種子を使った防除効果試験では、日本で報告される全7種の水稲種子伝染性病害に対して、対照区である温湯消毒と同等かそれ以上の効果を確認しました(表2)。また、温湯消毒よりも高温処理ですが、発芽率に影響はありません。
  • 本装置の作業能率(乾燥まで含む)は、100~150kg/h、処理に要するランニングコスト(灯油(ボイラ用)、電気、水の使用量と各単価より算出)は、水稲種子1kgあたり、約4円(作業能率100kg/h時)です。
  • 本装置は、湿式消毒の効果と乾式消毒の利便性を兼ね備えた装置です。

今後の予定・期

本装置では、温湯処理では発芽率が低下するとされていたもち品種の種子や、温湯処理ができない麦類の種子についても、発芽率の低下は確認されません。また、小麦についてはカビ由来の病害(なまぐさ黒穂病)について防除効果を確認しており、今後、本装置の麦類種子への適用拡大が期待されます。

本装置の導入により、種子消毒の作業体系が変化することが予想されます。今後は、現地実証試験などを通じて、現場での作業適応性や装置の耐久性を確認するなど装置の完成を図り、平成27年度以降の実用化を目指します。

なお、平成26 年12月17日に現地検討会を開催します。詳しくは農研機構または新農機(株)ホームページの開催案内をご覧下さい。

農研機構ホームページ:
http://www.naro.affrc.go.jp/event/list/2014/10/054562.html

新農機(株)ホームページ:
http://www.shinnouki.co.jp/info/h26_12_17.html

用語の解説

過熱水蒸気 : 飽和水蒸気(沸点で蒸発した状態の蒸気)を一定圧力下で加熱すると、過熱水蒸気になる。過熱水蒸気は飽和蒸気よりも大きな熱エネルギーを持つ。

凝縮 : 水蒸気が水に変化する現象。凝縮した水は水稲種子の表面に付着すると同時に、潜熱(水蒸気が水に変化する際の熱エネルギー)により、種子は急速に加熱される。

種子伝染性病害 : 病原菌をもっている種子が原因となり、主に育苗期間中に拡がる病害。日本の水稲種子伝染性病害は、カビが病原菌となる、いもち病、ばか苗病、ごま葉枯病、細菌が病原菌となる、もみ枯細菌病、苗立枯細菌病、褐条病、虫が原因のイネシンガレセンチュウの7種類が報告されている。

図1 高能率水稲等種子消毒装置の外観(本体)

表1 高能率水稲等種子消毒装置の主要諸元(本体)

図2 装置による処理のイメージ

表1 水稲種子伝染性病害に対する防除効果