プレスリリース
エンジンやトラクターの性能をより高精度に評価できる試験手法

- 農用エンジン評価試験の高度化研究から -

情報公開日:2016年3月 8日 (火曜日)

ポイント

  • エンジンやトラクターの性能をより高精度に評価できる試験手法を提案
  • 常に変化する大気圧に応じて、エンジン入口の空気温度を制御し、大気の条件を一定とする試験手法を用いることにより、試験環境条件に左右されにくい、試験結果のばらつきが少ない、高精度に性能評価を行えることを確認

概要

農研機構生研センターは、大気圧やエンジン入口の空気温度(以下、吸気温度)といった試験環境条件の違いが、エンジン性能に及ぼす影響を明らかにし、これら試験環境条件の違いにより生じる試験結果の差違が小さい、より高精度なエンジン性能試験を行うための試験手法について研究を進めています。

自然吸気式エンジンや排気タービン式エンジンを供試して、エンジン性能試験を実施した結果、試験方法に定められた試験条件の範囲内で試験を実施しても、試験実施時の大気圧や吸気温度の違いにより、エンジン出力や燃料消費率※1、排出ガスの試験結果に差違を生じることが確認されました。

これを解決するため、常に変化する大気圧に応じて、吸気温度を制御し、大気の条件を一定とする試験手法を提案しました。

この試験手法を用いることにより、試験実施日の大気条件の違いにかかわらず、特にエンジン出力や燃料消費率の試験結果の差違を小さくできることを確認しました。

本手法を適用してエンジンやトラクターの性能試験を実施することで、試験実施場所(標高)や試験実施時の大気条件の違いに関係なく、より客観性の高い性能評価が期待できます。今後、OECD(経済協力開発機構)をはじめ諸外国の評価試験機関にも提案していく予定です。

 

関連情報

予算 : 運営費交付金

 

詳細情報

背景と経緯

エンジンやトラクターの性能試験方法には、試験機器の測定精度、燃料性状、各測定対象の測定位置や測定時間、試験手順に加え、試験中の大気圧、吸気温度、冷却水温度、燃料温度やエンジンオイル温度などの試験条件が細かく規定され、試験は規定された試験条件等の範囲内で実施することになっています。しかしながら、規定された範囲内であっても試験条件の違いが性能に影響を及ぼすことがあり、これらの影響が大きい場合には、試験結果に差違が生じることが考えられます。また、 より公正な性能試験を実施するためには、試験手法・条件を見直すなどの対策が必要と考えられます。

そこで、生研センターでは平成25年度から、大気圧、吸気温度を変えて、エンジン性能試験を実施し、試験環境条件がエンジン性能に及ぼす影響を明らかにしてきました。また、より精度の高いエンジン性能試験を行うため、試験環境条件の違いにより生じる試験結果の差違をできるだけ小さくできるような試験手法を提案し、この試験手法を適用することによる試験結果への影響を確認しました。

 

結果の概要

  • 試験環境条件がエンジン性能に及ぼす影響
    自然吸気式エンジンや排気タービン式エンジンを供試し、試験実施時の大気圧、吸気温度、燃料温度が異なる条件で性能試験を実施した結果、試験方法に定められた試験条件の範囲内で試験を実施しても、試験実施時の大気圧や吸気温度などの大気条件の違いが、エンジン出力や燃料消費率、また排出ガスでは高負荷域での粒子状物質(以下、PM)※2、窒素酸化物(以下、NOx)※3及び一酸化炭素(以下、CO)※4の試験結果に影響を及ぼすことが明らかになりました。具体的には、大気圧が高い場合に空気密度が高くなる条件ではエンジン出力は高く、燃料消費率は低く、またPM及びCO排出量は少なく、NOx排出量は多くなる傾向があり、反対に、大気圧が低い場合に空気密度が低くなる条件では、それぞれ逆の傾向になることが確認されました(図1)。

  • 大気条件を一定にすることによる試験結果への効果
    大気圧及び吸気温度のうち、大気圧については制御不能ですが、吸気温度については空調装置を用いて比較的容易に制御が可能です。このため、常に変化する大気圧に応じて、吸気温度を制御して大気の条件を一定とする(具体的には、大気圧が高い場合には吸気温度を高く、大気圧が低い場合には吸気温度を低くし、空気密度を一定とする)手法を用いることで、大気条件の違いにより生じる試験結果の差違を小さくすることを目指しました。
    この大気条件を一定とする試験手法と現在各試験機関で用いられている吸気温度を大気圧にかかわらず一定とする従来の試験手法(常に変化する大気圧により大気条件は変化する)による性能試験を、試験日時を変えて繰り返し行い、性能試験結果を比較しました。
    その結果、大気条件を一定とする試験手法は、従来の試験手法に比べて、特に出力及び燃料消費率の試験結果の差違を小さくできることを確認しました(図2、3)。一方、排出ガスについては、試験結果の差異を同等以下にできる可能性が示唆されましたが、試験に用いるエンジンにより傾向が異なるため、更にデータを蓄積し、本試験手法による有効性を確認する必要があると考えられました。

 

今後の予定・期待

今後、農研機構生研センターが実施するエンジンやトラクター性能試験において、大気条件を一定とする試験手法を適用することで、大気条件の違いにより生じる試験結果の差異が少ない評価をすることが期待できます。更に、今後、OECD(経済協力開発機構)をはじめ諸外国の評価試験機関にも本試験手法を提案していく予定です。

 

用語の解説

※1 燃料消費率 : 
エンジンの熱効率を表す指標の1つ。単位時間・単位出力あたりどれだけの燃料を消費するかを表す。
※2 粒子状物質 : 
高負荷時に多く発生する黒煙(すす)、低温始動時に発生する燃料や潤滑油の燃え残りなどからなる。ガン、ぜん息、花粉症などへの影響が懸念されている。
※3 窒素酸化物 : 
燃焼温度や酸素濃度が高いほど多く発生する。酸性雨や光化学スモッグの原因となる。
※4 一酸化炭素 : 
燃料が不完全燃焼することで生成され、中毒性のある有毒ガスである。ディーゼルエンジンの通常運転では、空気が十分ある状態で燃焼が行われるため、ガソリンエンジンに比べ、発生量は非常に少ない。

 

図1 大気条件の違いによる同一エンジンの性能(出力)例

 

図2 大気条件を一定とした試験結果(出力)との比較例 図3 大気条件を一定とした試験結果(燃料消費率)との比較例