プレスリリース
水田輪作における地下水位制御システム活用マニュアル

- FOEASの利用方法を紹介 -

情報公開日:2014年4月30日 (水曜日)

ポイント

  • 水田輪作における地下水位制御システム活用マニュアルを刊行しました。
  • 地下水位制御システム(FOEAS)を活用した稲、麦、大豆、野菜の栽培技術やFOEASの導入条件、維持管理法を解説しています。

概要

  • 農研機構および全国の公立研究機関、全国農業協同組合連合会で構成した研究開発コンソーシアムにおいて、地下水位制御システム(FOEAS)1)(以下、「FOEAS」とする。)の活用マニュアルを刊行しました。
  • 近年、全国的に普及しつつあるFOEASの導入に好適な条件や機能維持・管理法、さらにシステムを活用した水稲乾田直播、小麦、大麦、大豆の栽培技術、野菜作への応用について解説し、さらに先行的導入事例の経済性評価も紹介しています。FOEASを導入している生産者の栽培技術の改善情報として、さらに、FOEASの導入を検討している地区の参考としての利用が期待されます。
  • 「水田輪作における地下水位制御システム活用マニュアル」は、下記のURLからダウンロードできます。
    http://www.naro.affrc.go.jp/narc/contents/foeas/index.html

農林水産省委託プロジェクト「水田の潜在能力発揮等による農地周年有効活用技術の開発-土壌養水分制御技術を活用した水田高度化技術の開発」(2010~2012年)
農林水産省委託プロジェクト「国産農産物の革新的低コスト実現プロジェクト-耕地高度利用」(2013年)


詳細情報

開発の社会的背景

日本の水田は、水稲、麦類、大豆などの土地利用型作物の生産において中核的な役割を果たしている生産基盤です。現在、水田を活用した水田輪作体系では、水稲の低コスト化、麦類、大豆では高品質安定生産が喫緊の課題となっています。さらに作業の競合回避や収益性向上のために水田への野菜作導入も期待されているところです。
これらの目標を達成するため、近年、FOEASや集中管理孔2)などの水田の灌排水機能を改善した基盤整備技術が開発されています。

研究の経緯

地下水位制御システムの普及面積は、現在、9000ha(含施工予定)に達し、その特長を活かした各種作物の栽培技術やFOEASの導入条件、維持・管理等に関する情報が生産現場から強く求められていました。そこで平成22年度より農林水産省の委託プロジェクトとして、9道県と全国農業協同組合連合会および農研機構が研究開発コンソーシアムを構成し、FOEAS活用のための研究開発を進めてきました。

研究の内容・意義

このマニュアルでは、FOEASや集中管理孔で地下灌漑を行う際の好適な導入条件、水稲や大豆栽培時の用水量、FOEASの機能を低下させる要因とその際の回復方法、雑草管理や耕耘作業への影響等について紹介しています。さらに全国での水稲乾田直播、小麦、大麦、大豆の栽培時における利活用方法を解説するとともに、水田への導入が期待されているネギ、ブロッコリー、ハクサイなどの野菜作への応用について紹介しています。また、先行的にFOEASを導入している事例についての経済性評価を行っています。

主な内容

  • 大豆栽培時の用水量
    • 現在、大豆栽培における灌漑は、畝間灌漑が主流でその実施面積はわずかです。このため、大豆栽培で地下から給水する場合の水量は未知でした。一例として、鹿児島県における大豆栽培期間中に地下水位を-30cmに制御した際の用水量は120~200mmとなっています(図1)。この程度の水量であれば、同じ地区内の水稲への灌漑に与える影響は無く、地下灌漑による大豆の増収効果が期待できます。
  • 水稲の乾田直播による出芽苗立ちの向上
    • 播種後、地下灌漑を使って地下水位を地表面が湿る程度まで上昇させることにより、苗立ちを安定化させることができます(図2)。
  • 麦類栽培で管理
    • 麦類の栽培においては、強い干ばつが発生しない限り地下灌漑は不要で、FOEASの排水機能を中心に活用して栽培します(図3)。
  • 野菜の播種・定植後の活着促進
    • 野菜についても、乾燥時における播種あるいは定植後の地下灌漑により、良好な出芽や苗の活着が得られます。夏季の高温乾燥時に定植するブロッコリーでは、定植直後の地下灌漑により、地下灌漑なしに比べて生育が早まり増収した試験結果も得られています(図4)。
  • FOEAS導入の経済性評価
    • 稲・麦・大豆作経営が、補助事業を利用しないでFOEAS圃場を施工した場合の導入費用は、構成材の平均耐用年数(減価償却に要する年数) を13年として試算すると、10a当たり年間約2.3万円でした。FOEASによる灌排水機能の向上により、大豆の10a当たり収量が導入前に比べ76kg増加すれば、経済的に有利となります。また、麦大豆二毛作が実施されれば、より多くの効果が期待できます。

今後の予定・期待

このマニュアルにより、FOEAS導入地域における本システム機能の維持管理が図られるとともに、水稲、麦類、大豆、野菜の高位安定生産に貢献することが期待されます。また、本マニュアルは、今後の試験研究の進展や生産現場からの声を反映させて、さらにバージョンアップを図っていく予定です。

用語の解説

  • 1)地下水位制御システム(FOEAS:Farm-Oriented Enhanced Aquatic System):
    給水(水位管理器)と排水(水位制御器)の調節機能を有した水位制御システムで、雨が降れば暗渠から排水し、晴天で乾燥が続けば地下から灌漑を行い、栽培作物に応じた最適な水位(地下-30cm~+20cm)を維持することで、湿害や干ばつ害を軽減し、農作物の収量及び品質の向上に寄与する技術です。
  • 2)集中管理孔:用水路に簡易な施設を取り付けることによって暗渠排水施設に灌漑用水を給水することで暗渠管の清掃が可能になります。このようなシステムを「集中管理孔」と呼んでいます。また、このシステムを利用して地下灌漑を行うことが出来ます。

マニュアル表紙画像

図1

※鹿児島県における灰色台地土水田転換畑圃場での成績。
品種はすべてフクユタカ

図1 地下灌漑による大豆の増収効果の例

図2

図2 水稲乾田直播の地下灌漑圃場と表面灌漑圃場における苗立ち数

図3

図3 小麦の登熟期間の水管理方法と収量
(中央農研・谷和原圃場)

図4

図4 地下灌漑の有無とブロッコリーの収量(2012年、北陸研究センター)
定植直後に制御区では地下灌漑,開放区では散水灌漑を実施