プレスリリース
黄色系の花の着色を促進する新しい遺伝子を発見

- ~新しい花きの開発に道~ -

情報公開日:2014年6月 4日 (水曜日)

国立大学法人 筑波大学

独立行政法人 農研機構

一般財団法人 生産開発科学研究所

公益財団法人 かずさDNA研究所

ポイント

  • トマトの変異体集団の中から花弁の色が薄くなった変異体を選抜し、その原因遺伝子を初めて明らかにしました。
  • これは、これまで見つかっていなかった、花弁(花びら)に色を付ける物質であるカロテノイド*1の一種キサントフィル*2のエステル化(安定化)を促進する遺伝子と考えられます。
  • 今後、この遺伝子を利用した、新しい花色を有する花きの開発が可能になると期待されます。

国立大学法人筑波大学生命環境系の有泉亨助教、江面浩教授、独立行政法人農研機構花き研究所、一般財団法人生産開発科学研究所、公益財団法人かずさDNA研究所、国立大学法人東京大学、フランス国立農学研究所の研究グループは、植物の花の色を制御する遺伝子を初めて同定することに成功しました。

キサントフィルは器官や組織に色を付加するカロテノイド化合物の一種で、生物界に広く存在しています。植物の花弁においては、キサントフィルと脂肪酸がエステル結合して、エステル化キサントフィル*3として存在していることが知られています。しかし、エステル化キサントフィルの生成と蓄積のメカニズムは、これまでほとんど明らかになっていませんでした。

今回の研究は、筑波大学遺伝子実験センターが有するトマト品種マイクロトムの大規模変異体集団の中から、花色が薄くなりエステル化キサントフィル蓄積が低下した変異体を選抜し、その原因遺伝子を明らかにしたものです。この遺伝子を活用することで、新しい花色を示す花き類の開発が期待されます。

本研究成果は、2014年6月3日付けで、英国のオンライン科学誌「The Plant Journal」に掲載されます。

*   本研究は、科学研究費補助金・若手研究A採択課題「トマト花弁内におけるエステル化カロテノイド蓄積の分子基盤の解明」、テニュアトラック普及定着事業からの支援のもと実施されました。

 

研究の背景

カロテノイドは生物の器官・組織に黄色、オレンジ、赤などの色を付加する化合物であり、植物、菌類、シアノバクテリアなどから、合計750種類以上のカロテノイド化合物が発見されています。カロテノイドのうち酸素分子を持つ化合物群はキサントフィルと総称されます。植物の花や果実においてキサントフィルは、脂肪酸とエステル結合して、エステル化キサントフィルとして存在することが知られています。エステル化カロテノイドは、植物だけでなく広く動物にも含まれており、その存在は古くから知られていますが、キサントフィルのエステル化のメカニズムについては、これまでほとんどわかっていませんでした。

 

研究内容と成果

  • 筑波大学遺伝子実験センターが有するトマト品種マイクロトムの大規模変異体集団(1万系統以上)を栽培し、カロテノイドが欠損し、花色が薄くなった系統を複数選抜しました。
  •  選抜系統の花におけるカロテノイド類を詳細に解析し、エステル化キサントフィルがほとんど存在しない系統を発見しました。
  • その系統のゲノムを解析し、エステル化キサントフィルが欠損した変異体の原因遺伝子を同定しました。
  • 同定した遺伝子はキサントフィルと中鎖脂肪酸を基質としたエステル化キサントフィルの産生に寄与する酵素遺伝子であると推測されました。
  • キサントフィルへの脂肪酸のエステル結合は組織内のカロテノイド蓄積を安定化させる役割があると推測されることから、この遺伝子を活用してカロテノイドを高蓄積させることで新しい花色を示す花きを創出できると期待されます。

今後の展開

農研機構花き研究所は、この新規遺伝子を用いた新規花き品種の育種を進めています。筑波大学では、遺伝子同定の終了していない他のカロテノイド欠損変異体の原因遺伝子同定を進めており、第2、第3の新規分子育種素材の開発が期待されます。

 

参考図

 図 トマト品種マイクロトムの花の色の薄い変異体(左)と野生株(右)

 

用語解説

*1 カロテノイド

カロチノイドともいう。炭素数40の化学構造を持つ炭化水素化合物の総称で、天然に存在する色素。ニンジンに含まれるβカロテンやトマト果実に含まれるリコペンなどがある。植物の花や果実を着色して鮮やかな色彩を持たせることで、花粉媒介昆虫や果実食動物を視覚的に引き付けて花粉や種子を飛散させる役割がある。

*2 キサントフィル

カロテノイドの中で、酸素分子を持つ化合物の総称。甲殻類の殻に含まれるアスタキサンチンや緑葉野菜に含まれるルテインなどがある。植物では主に花や果実等に多く蓄積してこれらの器官に黄色や橙色の色彩を与える。

*3 エステル化キサントフィル

キサントフィルに脂肪酸がエステル結合した化合物の総称。植物のみならず、甲殻類、ほ乳類、シアノバクテリア等にも含まれる。

 掲載論文

タイトル:   Identification of the Carotenoid Modifying Gene PALE YELLOW PETAL 1 as an Essential Factor in Xanthophyll Esterification and Yellow Flower Pigmentation in Tomato (Solanum lycopersicum).

(和訳)     カロテノイド修飾遺伝子PALE YELLOW PETAL1はエステル化キサントフィルの蓄積とトマトの花弁黄色化に必須である。

著 者:    有泉亨、岸本早苗、各務良、眞岡孝至、平川英樹、鈴木穣、大関悠子、白澤健太、Stephane Bernillon、岡部佳宏、Annick Moing、浅水恵理香、Christophe Rothan、大宮あけみ、江面浩

掲載誌:   The Plant Journal

公開日:   2014年6月3日