プレスリリース
「新規就農指導支援ガイドブック」の配布

- 新規参入者への支援方策や経営確立に役立つツールをひとまとめに -

情報公開日:2015年9月 3日 (木曜日)

ポイント

  • 新規参入者の受入準備から、就農、経営確立まで、段階ごとに要点を示した支援者向けの手引きです。
  • 計画作成・診断ツールや経営管理チェックシートなどの就農支援に役立つツールや、新規参入者受入れの先進事例もあわせて紹介しており、就農支援の充実に活用できます。

概要

農研機構は、農業経営者として就農する新規就農者(新規参入者)への支援方策や経営確立に役立つツールの研究、開発を進めています。このたび、就農指導支援機関を主な対象とした「新規就農指導支援ガイドブック-新規参入者の円滑な経営確立をめざして-」(手引き編、ツール・事例編)をまとめました(図1)。

就農支援は、農地をはじめとする経営資源の取得方法や就農後の経営展開に応じて、きめ細やかに行うことが求められます。そこで、ガイドブックでは独立就農、法人経由型就農、第三者継承という三つの就農方式の特徴と、それを踏まえた支援の要点を解説しています。

あわせて、就農相談やフォローアップの場面で使えるシミュレーションソフトやチェックシート、地域で受入体制を考える際に参考になる先進地域の取組事例も紹介しています。就農までの段階ごとに指導の要点を確認することで、経営確立まで一貫した指導体制づくりに利用できます。

図1 ガイドブックのねらい

入手方法

農研機構中央農業総合研究センターの「農研機構|経営管理システム」のウェブページ

(http://fmrp.dc.affrc.go.jp/)からダウンロードできます。

予算

交付金、競争的資金(科研費)

その他

本資料は、農政クラブ、農林記者会、農業技術クラブ、道政記者クラブ、札幌市政記者クラブ、筑波研究学園都市記者会に配付しています。

※農研機構(のうけんきこう)は、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構のコミュニケーションネーム(通称)です。 新聞、TV等の報道でも当機構の名称としては「農研機構」のご使用をお願い申し上げます。


詳細情報

背景

若い農家後継者の就農が減る一方で、ここ数年、農外からの新規参入者は急増しています。2012年から開始された青年就農給付金をはじめとする新規就農総合支援事業の効果とみられます。 しかし、全体として、生計費を賄える農業所得が確保できていない新規参入者は少なくありません。国レベルの支援体制が整う中、受入地域でのフォローアップを含めた就農支援の充実がより一層重要になっています。

経緯

新規参入者の就農方式が多様化する中で、農地や技術といった経営資源の取得方法に注目すると、就農方式は独立就農、法人経由型就農、第三者継承の三つに大別できます。農研機構では、新規参入者の就農促進に向けて、新規参入者の経営調査や受入事例の実態分析を行い、就農方式の多様化を踏まえた支援方策を研究してきました。また、新規参入者の経営確立の円滑化につながるソフトウェアを開発し、データベースを整備してきました。

-意義ガイドブックの構成・特徴(図2)-

■就農方式ごとに就農の段階別に支援の要点を説明

手引き編では、独立就農、法人経由型就農、第三者継承に分けて就農支援の要点を整理しています。就農の段階ごとに要点を確認できるようにしており、経営確立まで一貫した切れ目のない就農支援を行うのに利用できます。

独立就農では、研修・就農準備段階での技術習得や農地調達とあわせ就農段階での地域への溶け込み、経営成長の後押しが大事です。また、法人経由型就農では、法人のコンセプトにあった就農支援を行うことが重要ですので、新規参入者を受け入れる目的を受入準備段階で明確にし、選考段階では法人の考え方を新規参入者と共有することが肝心です。さらに、第三者継承では、選考段階や研修・就農準備段階で移譲者と継承者との相性を慎重に見極め、合意書を作成するなど経営資産の継承を確実に行わせることが大切です。

■就農相談や研修、就農段階で使えるツール

ツール・事例編では、開発したシミュレーションソフトをはじめとするツールの使用方法、活用場面を紹介しています。

現実的な就農計画、営農計画を簡便に

シミュレーションソフト『Z-BFM』を使えば、営農モデルを作る専門知識がなくても簡便に営農計画が試算できます。作物の収量や費用、経営面積、労働力、機械装備などを入力することで、より現実的な計画づくりが可能となります。また、『資金繰りシート』を用いれば、最長5年分の資金繰り表が作成でき、資金調達の助言などに生かせます。これらの計画作成・診断ツールは、研修・就農準備段階や就農段階で利用することで、新規参入者に不可欠な就農計画・経営計画づくりに対するサポートを充実でき、新規参入者とのコミュニケーションの円滑化にも役立ちます。

就農後のフォローアップで力を発揮

『経営管理チェックシート』は主に就農段階で使うツールで、経営管理の達成度が把握できます。このチェックシートは、経営管理の分野ごとに、知識が不足しているのか、判断力が備わっていないのか、作業実行上の問題があるのか、いわば新規参入者の「弱点」を見つけ出します。新規参入者による自己評価と指導支援機関による客観評価いずれにも使え、フォローアップを強化できます。

このほかに、受入準備段階や選考段階での利用を想定した、就農希望者の性格にもとづく『就農方式の適性判断ツール』も紹介しています。新規参入者の自己資金や家族労働力などとあわせて考慮することで、就農希望者にふさわしい就農方式を提案できます。

■就農支援の実例も紹介

それぞれの地域で就農支援体制を検討する際には、先進事例の情報が手がかりとなります。ツール・事例編では、就農方式ごとに先進地域の実例を整理しています。

独立就農では、3事例を取り上げて公的機関や農協、農家グループが連携して実施する効果的な就農支援を紹介しています。法人経由型就農では、新規参入者受入れのプログラム化、システム化を図っている2事例について、新規参入者に対する資本金の出資や生産計画の提示など、法人経由型就農に特徴的な取組をみていきます。第三者継承については、新規就農相談センターや農業者グループが中心となった事例に、町と民間が共同出資した研修施設を経て就農させる取組を加えた3事例を掲載しています。第三者継承では継承プロセスを円滑に進めることが極めて重要になりますので、継承プロセスの経過も詳しく紹介しています。

用語

独立就農
・農業経営に必要な農地・機械・施設や技術・信用・販路などを独自に確保し、新たに経営を作って農業を始める(創業する)ものです。

・法人経由型就農
農業法人での研修・就業を経て、その農業法人から農地・施設や技術・販路の取得に関するサポートを得て、農業経営を始める(創業する)ものです。経営開始後も、農業法人と一定の関係性を持ち続けます。

・第三者継承
後継者のいない農業経営がそれまで行ってきた事業を新規参入者に継承するものです。新規参入者は、農地・施設・機械や技術・信用・販路を一体的に引き継ぐことによって経営を開始します。

図2 ガイドブックの全体構成