プレスリリース
(研究成果) 農作業安全のツボ教えます!コンテンツをウェブ公開

- 対話支援と事故事例検索で安全な農作業現場へ -

情報公開日:2020年5月19日 (火曜日)

ポイント

   農研機構では、研修担当者が生産現場で効果的に農作業安全研修を行える「対話型研修ツール」と、誰もが様々な事故事例と原因・対策を学べる「農作業事故事例検索システム」を公開・提供します。

概要

   農作業事故を減らすためには、操作ミスなどの人的要因だけでなく、「機械・用具等」、「作業環境」及び「作業・管理方法」の各要因に対して具体的な改善を行う必要があります。そこで農研機構では、地域の農作業安全研修の担当者や生産者自身が、現場の改善によって、単なる注意喚起にとどまらず、実効性のある安全対策を実現するためのサポートツールとして、二つのコンテンツを開発しました。
   「対話型農作業安全研修ツール」は、生産現場の実態に合った効果的な改善策を考えるためのコンテンツです。農業法人等の小集団を対象に、あらかじめ参加者のヒヤリハット経験1)を調べ、回答が多かった項目や実際の事故事例について、研修担当者と参加者で話し合い、実践可能で効果的な改善策を検討できます。検討材料として改善策一覧表も準備しています。
   「農作業事故事例検索システム」では、様々な農作業事故の事例から、身の回りや地域で起き得る事故を見つけ、原因究明や改善策に役立てることができます。
   いずれもウェブサイト「農作業安全情報センター」からご利用・ダウンロードできます。

<関連情報>
予算:運営費交付金

社会的背景

   農作業死亡事故は、2018年には全国で274件発生しています。これは就業者当たりの死亡事故発生割合でみた場合、他産業と比較して大変多く、長年大きな問題となっています。そこで農研機構では、2011年度より複数の道県と連携して農作業事故を詳しく調査・分析し、効果的な対策につなげる研究を行ってきました。
   この中で、様々な農作業事故の原因を、①機械・用具・施設等に関するもの、②作業環境に関するもの、③作業・管理方法等に関するもの、④ミスや年齢など人に関するものに分類し、問題点を分析しました。その結果、農作業事故はこれら四つの原因のいくつかが重なって発生しており、④の人的要因だけで起きた事故はほとんどありませんでした。つまり、労災対策で先行する他産業と同じように、農作業安全対策においても、単なる注意喚起にとどまらず、「機械・用具等」、「作業環境」及び「作業・管理方法」の各側面から、現場ごとに問題点を見つけ出し、具体的な改善を行う必要があります。

開発の経緯

   農業では他産業に比べ、公開された事故事例が少なく、詳しい原因は分からないものも多かったため、従来の取組は「気をつけよう」の注意喚起など、人的要因に対する啓発が主流でした。また、チラシや学校形式の研修会など一方通行型の取組がほとんどです。
   そこで、これまでの取組から一歩進んで、「機械・用具等」、「作業環境」及び「作業・管理方法」の各側面から実効性のある安全対策を実現するためのサポートツールとして、二つのコンテンツを開発しました。

開発コンテンツの特徴

【対話型農作業安全研修ツール】
   農業法人等の小集団を対象として、生産現場ごとに、研修担当者と参加者が対話しながら効果的な改善策を考えるためのコンテンツです。乗用トラクターなど10種類の機械・用具におけるヒヤリハット経験をアンケート調査する「事前調査票」、ヒヤリハット経験ごとに「機械・用具等」、「作業環境」及び「作業・管理方法」の各側面から改善策の例を分類した「改善策一覧表」、「活用マニュアル」の3点で構成されています(図1)。
   研修担当者は「事前調査票」で参加者のヒヤリハット経験を調べ、回答が多かったものや実際の事故事例について、「活用マニュアル」を参考に、研修担当者と参加者で話し合いながら、具体的な現場の改善策を検討します。検討には、「改善策一覧表」をアイデア集として活用できます。従来の一方通行型ではなく、対話を通じて参加者からも意見を出してもらうことで、実践可能で効果的な改善策の検討ににつなげることができます(図2)。

【農作業事故事例検索システム】
   北海道農作業安全運動推進本部と連携して詳細な現地調査を行い、「人」、「機械・用具等」、「作業環境」及び「作業・管理方法」の各側面から原因や改善策を分析した事故事例をウェブ上で検索できる、農研機構が開発したシステムです。作目別の事故一覧から、事故形態や機械用具名称で絞り込み、該当する事故報告を見つけることができます(図3)。

今後の予定

   いずれのコンテンツもウェブサイト「農作業安全情報センター」内で公開するとともに、農作業事故調査で連携している道県を中心に、引き続きこれらを活用した農作業安全活動に取り組む予定です。また、研修ツールの「事前調査票」と「改善策一覧表」は、編集可能な表計算ファイル形式で提供しています。研修担当者は、地域の実情を踏まえて項目の取捨選択や追加を行い、地域版ツールを作ることも可能ですので、積極的なご活用をお願いします。

用語の解説

1) ヒヤリハット経験:仕事をしていて、もう少しでけがをするところだったということがあります。このヒヤっとした、あるいはハッとした経験のことを指します。(出典:厚生労働省「職場のあんぜんサイト」)

参考図

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図1 対話型農作業安全研修ツール(左上:事前調査票 右下:改善策一覧表)
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図2 対話型研修ツールと事故事例を活用した農事組合法人での研修事例
(出典:(一社)全国農業改良普及支援協会「平成29年度農作業安全総合対策推進事業」)
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図3 農作業事故事例検索システム(左上:事例一覧 右下:個別報告例)