プレスリリース
極大果で食味のよいイチゴ新品種「おおきみ」を育成

情報公開日:2008年12月25日 (木曜日)

農研機構 九州沖縄農業研究センターでは、わが国のイチゴの安定生産に向けて、極大果で良食味な病害複合抵抗性のイチゴ新品種「おおきみ」を育成しました。本品種は、平均果重が20g以上の極大果で日持ち性と食味に優れ、摘果作業を省略した省力栽培が可能です。さらに、イチゴ栽培で大きな問題となっている炭疽病、うどんこ病および萎黄病に対して抵抗性を有しています。

本品種の極大果性と優れた果実品質を活かして、家庭消費用だけでなく贈答用への需要拡大が期待できます。

本品種は、農林水産省プロジェクト研究「画期的園芸作物新品種創出による超省力栽培技術の開発(超省力園芸)」で得られた成果です。《イチゴに関する用語説明》


詳細情報

《背景とねらい》

イチゴの促成栽培では、収穫・調製作業が総労働時間の5割を占めています。そのため、これらの作業を省力化できる品種の育成が強く求められています。また、消費者が大粒の果実を好む傾向にあることに加え、安全・安心への意識の高まりからから、大果で減農薬栽培に重要な病害抵抗性を有する品種の育成が求められています。
そこで、九州沖縄農業研究センターでは、大果で果実の大きさと形状の揃いが優れ、収穫・調製作業の省力化が可能で、重要病害である炭疽病、うどんこ病および萎黄病に対して抵抗性を有する促成栽培用品種を育成しました。

《成果の内容・特徴》

  • 「おおきみ」(図1)は、大果で果実品質の優れる「さつまおとめ」を母親に、極大果の「いちご中間母本農1号」を父親としています。
  • 草姿は立性で、直枝型の果房形態を有し、果房当たりの着果数が少いため摘果作業が不要です(図1、表1)。
  • 休眠は浅く、厳冬季の草勢は「とよのか」より強めです(表1)。
  • 花芽分化期は、ポット育苗では9月下旬であり、開花始期は「とよのか」より5日 程度遅く、「さちのか」並みです(表1)。
  • 早晩性は「さちのか」並で、促成栽培に適しています。収穫開始期は「とよのか」より7日程度遅く、2月末までの早期収量は「とよのか」より少なめですが、4月末までの収量は同等であり、商品果率は極めて高いです(表1、2)。
  • 果実は平均果重が20g以上の極大果で、形状(円錐~短円錐形)の揃いに優れています。果皮色は光沢がある橙赤色~赤色で、果肉色は淡燈色~淡赤色です。果実は硬めで、日持ち性に優れています。糖度が高く、香りも有り、食味は極めて良好です(図2、表2、3)。
  • 萎黄病および炭疽病に対しては中程度~やや強程度の抵抗性、うどんこ病に対しては強度の抵抗性を有しています。
  • 品種名称を「おおきみ」として、品種登録出願を平成20年8月18日に行いました(品種登録出願番号:第22831号)。今後、民間種苗会社を通じて販売する予定です。

《品種の名前の由来》

高品質なイチゴ品種の中で特に大きな実であることから命名しました。

【参考データ】

表1.「おおきみ」の促成栽培における形態的特性と早晩性

表2.「おおきみ」の促成栽培における収量と果実品質

表3.「おおきみ」の促成栽培における収量と果実品質

表4.「おおきみ」の病害抵抗性

図1.収穫開始期の「おおきみ」

図1 収穫開始期の「おおきみ」

図2 「おおきみ」の果実

図2 「おおきみ」の果実

《イチゴに関する用語説明》

イチゴは通常、日長が短くなり、気温が低下すると休眠を開始し、その過程で花芽を分化させるとともに、次第に休眠を深めていき、休眠は11月頃に最も深くなります。休眠中の株は葉を小さくするなど、不良環境への耐性が強まった状態にありますが、やがて訪れる春に備えて休眠を打破しておく必要があります。こういったイチゴの基本的な生理生態である、花芽分化と休眠を人為的にコントロールすることで、収穫時期や栽培方法が異なる各種作型が開発されています。


促成栽培
イチゴの露地栽培は、4~5月に開花し、収穫期間は5~6月と短期間です。一方、促成栽培は、ハウス内花芽分化と休眠を人為的にコントロールすることによって、年内11月~翌年5月までの長期間にわたって連続して収穫する作型です。9月に定植し、10月下旬にハウス内の保温・加温を開始します。宮城県以南の温暖地・暖地に適し、全生産量の90%以上をこの作型が占め、平均収量は3~4 t/10aです。

早出し促成栽培
促成栽培のなかで11月の早い時期から収穫する作型です。出荷量が少なく単価の高い年内に収穫できるイチゴを確保するため、苗を日中の短時間だけ光にあて、朝夕を暗冷蔵室に入れる「短日夜冷」や日夜連続して暗冷蔵室に入れる「暗黒低温」等の花芽分化促進処理を行います。花芽分化処理は8月中旬のお盆の頃から9月上旬頃まで行い、花芽分化確認後に定植することで、11月上・中旬から収穫できます。この栽培では最初に収穫する頂果房(第1果房)と次に収穫する第1次腋果房(第2果房)間の収穫の中休みの拡大が問題となっています。

半促成栽培
半促成栽培は、一度休眠させた後、休眠覚醒途中から保温を行い、2~3月に収穫を開始する作型です。10月に定植した株は一度休眠状態になりますが、自然低温を経過することにより休眠は打破されます。保温開始時期は寒冷地では12月、温暖地では1月で、収穫期は3月~6月です。

露地栽培
施設栽培の発達で、現在は非常に少なくなっています。9月中旬~10月上旬に定植し、温暖地の場合、開花期は4月、収穫期は5~6月となり、寒冷地では開花期は5月、収穫期は6~7月です。収穫期間は約1か月です。

炭疽病
イチゴ栽培における最も重大な病害の一つです。6月~9月の育苗期に発生して深刻な苗不足の原因となるばかりでなく、定植後の本圃においても株の萎凋枯死を引き起こします。現在、育苗期の炭疽病対策として、多回数の薬剤散布に加えて雨除け栽培や底面・ドリップ給水などの耕種的防除法が開発・導入されていますが、主要栽培品種は本病に罹病性であり、発生すると大きな被害を受ます。
萎黄病
イチゴ栽培において最も重要な土壌病害です。本病は苗伝染と土壌伝染を行います。7月~9月の育苗期と収穫期の2月頃からハウスで発生し、時には壊滅的な被害を及ぼします。被害株は果実の肥大が悪く、品質は低下し、ひどくなると枯死してしまいます。主要栽培品種には耐病性品種がないので、クロルピクリンや太陽熱等による土壌消毒に頼っていますが、病原菌は畑、水田のいずれでも長年生存するので、いったん汚染すると根絶することが難しい病害です。

うどんこ病
ハウス栽培で特に被害の著しい病害です。植物体表面にクモの巣状のかびを生じ、ついで白粉状物を形成し、発病が激しくなると、表面全体が白粉状物で覆われます。発病によって株全体が枯死したりすることはありませんが、果実に発生すると商品価値が失われるので、経済的に大きな被害を受けます。主要栽培品種には耐病性品種がないので、防除は農薬に頼っています。

疫病
イチゴ栽培において重要な土壌病害です。育苗期および本圃初期において立枯れや生育不良を引き起こし、安定生産を図るうえで大きな問題となっています。主要栽培品種には耐病性品種がないので、防除は育苗期の雨除け栽培、クロルピクリン等による土壌消毒や薬剤施用に頼っています。