プレスリリース
平成16年度からスタートする大型プロジェクト研究の紹介

- 九州沖縄農業研究センターにおける産学官連携研究の拡大 -

情報公開日:2004年6月 3日 (木曜日)

九州沖縄農業研究センターでは、平成16年度から3年間にわたり、2つの大型プロジェクト研究を開始します。これらのプロジェクトは地域農産物の有効利用を目指し、栽培技術の開発から高機能性食品や生分解性資材の開発まで、いわゆる「川上から川下まで」一貫した総合的な研究を行うものです。九州・沖縄地域を中心とした民間企業や大学、県の農業試験場など産学官が連携して研究課題を分担します。プロジェクト研究の推進により、サツマイモや熱帯果実など九州・沖縄地域で生産される特産農作物の利用が促進され、地域経済の活性化が大いに期待されます。


詳細情報

【プロジェクト研究I】

南九州におけるバイオマス利用システムの開発に着手

-サツマイモのゴミゼロ型生産利用システムの構築と実証試験をスタート-

九州沖縄農業研究センターは平成16年度からバイオマス・ニッポン総合戦略の一環として南九州特有のバイオマスであるサツマイモ残さの有効利用を柱とするバイオマス生産利用システムの構築と実証に地域の研究機関、企業を結集して取り組みます。

研究の概要

研究は、農林水産省の「農林水産バイオリサイクルプロジェクト研究」の課題として採択され、九州沖縄農業研究センター畑作研究部が実施主体となり、九州地域の公立研究機関、食品関連企業及び大学と共同して行います。研究期間は平成16年から3年間とし、南九州特有のサツマイモ残さである焼酎粕、デンプン滓、サツマイモ茎葉などを利用した新たな食品素材、有用物質の抽出、飼料化技術、生分解性農業資材の開発を組み合わせたゴミゼロ型サツマイモ生産利用システムの開発を目指します。16年度の予算は、ポリフェノール、ビタミンなどの有用物質抽出及び粕の発生がきわめて少ない焼酎製造・機能性酢の醸造実証ミニプラントの建設費を含め約1.4億円が計上されています。

研究の現状と展望

サツマイモ焼酎粕やデンプン滓は、一部は畑へ有機物資材として投入されていますが、腐敗しやすく悪臭などやっかいな産業廃棄物としてその処理に苦慮しているのが現状です。また、サツマイモの茎葉はそのまま畑へすき込まれています。しかし、焼酎粕は、機能性飲用酢の原料として使用できること、濃縮することで常温貯蔵が可能となり有機性農業資材として除草剤的な利用が可能であること、また焼酎粕そのものを減少させる醸造法がこれまでの研究で明らかになっています。デンプン製造では、無水摩砕搾汁法によりデンプン滓中に含まれる酵素やビタミン等の機能性成分の抽出・利用できる見通しが得られています。デンプン滓には食物繊維が多く、食品素材や生分解性資材の原料として利用できる可能性がすでに明らかになっています。また、サツマイモ茎葉にはポリフェノールが多く含まれ、これらを活用した機能性飼料や健康食品の開発も進められています。しかし、これらの大部分は研究レベルでの解明・開発に留まっているのが現状です。

この研究では、以上のような研究成果を活用し、機能性成分の大量回収・抽出のための実証ミニプラント、焼酎・酢の製造実証ミニプラントを立ち上げ実用化に必要な技術開発を行います。焼酎粕やデンプン滓由来の生分解性資材を活用したゴボウ、サツマイモ等の畑作物の栽培技術を開発します。サツマイモ茎葉利用のキーポイントとなる茎葉の効率的回収と調製技術の開発に取り組むとともに家畜飼料としての機能性解明と肉質向上を図ります。また、これらを組み合わせた南九州におけるゴミゼロ型サツマイモ生産利用システムの設計を行い実用化レベルでの実証につなげていきます。

研究の分担関係

九州沖縄農業研究センター:各要素技術開発に係わるとともにシステム全体の設計と評価及び研究全体のとりまとめを担当します。

鹿児島県農業試験場:デンプン滓の農業利用、デンプン滓由来新規農業資材を活用した栽培技術、サツマイモ茎葉の収穫技術及びサツマイモ加工残さからの機能性成分の大量抽出を担当します。

宮崎県農業総合試験場:サツマイモ茎葉の高品質安定栽培技術を担当します。

宮崎県畜産試験場、宮崎大学:サツマイモ茎葉を活用した家畜の飼養技術を担当します。

熊本大学、霧島酒造、宮崎県食品開発センター:醸造残さの少ない焼酎・機能性酢の製造技術を担当します。

九州大学、ドライアップジャパン:サツマイモ茎葉の乾燥調製技術を担当します。

田苑酒造:機能性成分の大量抽出を担当します。

日農化学工業:サツマイモ茎葉の機能性を活用した健康食品の開発を担当します。

ヤンマー農機九州:サツマイモ茎葉収穫機の開発を担当します。

 システム概要

 

【プロジェクト研究II】

沖縄対応特別研究:「沖縄の食材を科学し利用する」研究が進行中!

-血糖値上昇抑制成分の探索とシークワーサ飲料の開発をめざし第II期がスタート-

[背景・ねらい]

沖縄には多種多様の独特な食材があり、それらの中には長寿を支える秘密が隠されていると考えられます。沖縄対応特別研究では、「沖縄の食材を科学し利用する」ことを目標に、I期(平成13~15年度)においては「亜熱帯ウリ科野菜、果実における品質・機能性成分の評価と利用技術の開発」の研究を実施し、その成果をさらに深化させてII期(平成16~18年度)においては「沖縄県北部地域における特産果実の機能性に着目した高付加価値化のための利用技術の開発」の研究を実施しようとしております。II期での研究計画をここに紹介します。

[第I期の研究成果]

沖縄には抗酸化活性の高い作物が多いです。プロアントシアニジン、アントシアニン、カフェ酸誘導体と呼ばれるポリフェノール成分が多く含まれます。抗酸化活性も高いです。 熱帯原産果実の未利用部分は、高機能性成分を含む宝の山です。例えば、パインアップル茎葉には薬理活性の高いカフェ酸誘導体が含まれます。また、過熟果からは微香性の醸造酢が作れます。 ニガウリ(ゴーヤー)はビタミンC豊富な野菜です。天気の良い日が続くとビタミンC含量が高い果実を収穫できます。

[第II期の研究計画]

第I期での成果および地元沖縄県の要望を受け、第II期では下記に示す研究を進めるため平成16年度3,400万円が計上されています。 厚生労働省糖尿病実態調査報告によれば、糖尿病の疑われるヒトが多くなっているとのことです。そこで、本プロジェクトでは、血糖値の上昇を抑制できる沖縄特産果実を探そうとしています。成分としてはプロアントシアニジン、カフェ酸誘導体に注目しています。 血糖値上昇抑制効果を示す果実が見つかった場合には、その特性を活かした飲料等を開発します。 シークワーサーは、健康に良いことで有名になった沖縄北部地域の経済果実(換金作物)です。シークワーサーの栽培・加工等の現状を調査するとともに安定に生産できる技術を開発します。 また適度の酸度と機能性成分(ノビレチン、カフェ酸誘導体など)高含量を保った搾汁・成分調整・殺菌技術を開発し、機能性と飲みやすさを高めたシークワーサー飲料の開発を目指します。

[研究分担関係]

九州沖縄農業研究センター:沖縄特産果実プロアントシアニジンの血糖値上昇抑制効果解明とその抽出利用技術の開発 沖縄特産果実からのカフェ酸誘導体の抽出利用技術の開発 シークワーサー等新規利用技術の開発に係わる事前調査・研究

食品総合研究所(つくば市):沖縄特産果実に含まれるプロアントシアニジン及びカフェ酸誘導体の構造解析 高機能性シークワーサー果汁製造のための搾汁・殺菌技術及び搾汁残渣の有効利用技術の開発

中村学園大学(福岡市): シークワーサー搾汁液の成分調整技術の開発

沖縄県農業試験場名護支場:シークワーサーの安定生産技術の開発

用語解説

抗酸化活性

活性酸素・フリーラジカルによる酸化的障害を抑制する機能です。生活習慣病の大半は、これら活性酸素等の過剰発生が原因とされています。

ポリフェノール

植物の色素や苦渋成分で、その構造の中にOH基が2つ以上付いているものの総称です。抗酸化作用、血圧上昇抑制効果、血糖値上昇抑制効果、血液サラサラ効果など多様な機能性があり、近年注目されている機能性成分です。プロアントシアニジン縮合型タンニンとも呼ばれています。このタイプのポリフェノールはカテキンを基本単位にして、それらが縮合・高分子化したものです。

カフェ酸誘導体

構造中にカフェ酸の骨格をもつポリフェノールです。クロロゲン酸、ジカフェオイルキナ酸類、トリカフェオイルキナ酸などが知られています。

ノビレチン

カンキツ類特有のポリフェノールです。発がん抑制作用、血糖値上昇抑制作用、血圧上昇抑制作用などの機能性が知られています。

沖縄対応特別研究概要図