プレスリリース
(研究成果)サツマイモ輸出時の輸送中腐敗防止技術を実証

- 生産者・輸出事業者向けに標準作業手順書を公開 -

情報公開日:2020年9月30日 (水曜日)

農研機構は、産業界や農業団体等とともに、農畜産物のアジア等への輸出拡大を図る「九州沖縄経済圏スマートフードチェーンプロジェクト」を推進しています。この一環として、この度、サツマイモ(かんしょ)輸送中の腐敗による被害を、出荷前に行う洗浄・調製(根切)の後にキュアリング1)を実施することで、大きく減らせることを明らかにしました。また、本技術の実施手順等を取りまとめた標準作業手順書(SOP: Standard Operation Procedures)2)を作成・ウェブサイトで公開しました。

概要

syasin.png国産のかんしょは海外でも人気が高く、近年、輸出が急増しています。その一方で、海上輸送中にかんしょの腐敗が多発しており、生産者や輸出事業者にとって大きな損失となっています。
農研機構は、輸出におけるかんしょ腐敗の実態解明と腐敗防止技術の確立に取り組み、かんしょ輸送中の主な腐敗要因は軟腐病3)であること、その抑制に洗浄・調製後のキュアリングが有効であることを、室内試験および九州内から香港までの輸出を想定した実証試験により明らかにしました。
また、洗浄・調製後キュアリング実施手順やその他の腐敗防止のポイントを取りまとめたSOPを作成し、農研機構ウェブサイトで公開しました。
(https://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/laboratory/naro/sop/136531.html)。本SOPを活用してかんしょ腐敗防止方策の普及を促進することで、国産かんしょの輸出が安定化し、地域経済の活性化に繋がることが期待されます。

関連情報

予算:農研機構 九州沖縄経済圏スマートフードチェーンプロジェクト


詳細情報

背景と経緯

近年、日本の農産物はその品質の高さから海外への輸出が増えており、特に九州沖縄経済圏は高い農業産出額(2兆円)と立地条件を活かして、付加価値の高い農畜産物、加工品のアジア等への輸出を拡大しています。そこで農研機構、産業界、農業界、公設試、大学等が連携し、九州沖縄経済圏の農業・食品産業の成長産業化、地方創生への貢献を目的に、育種から生産、加工、流通、輸出までのスマートフードチェーンの事業化につながる研究開発を推進する"九州沖縄経済圏スマートフードチェーンプロジェクト"を2019年より開始しました。本プロジェクトの中で、農研機構は、現場に適用できる技術をスピーディに開発し、社会実装することを目指しています。
代表的な輸出農産物の一つである国産のかんしょは、高品質で食味に優れるため香港、台湾、東南アジア等の海外でも人気が高く、海外への輸出は金額で、2016年の8.7億円から2019年の16.9億円へと、3年でほぼ倍増するなど近年輸出が急増しています。一方、海上輸送におけるかんしょの腐敗が大きな問題となっており(写真1)、出荷段階では腐敗が認められないかんしょが輸入国に到着した時に腐敗しているケースが多く発生しています。輸送中にかんしょの腐敗が急激に進行していると考えられ、生産者や輸出事業者にとって大きな損失となっています。そこで農研機構では、九州沖縄経済圏スマートフードチェーンプロジェクトの一環として、かんしょ輸出における腐敗発生の実態調査を行うとともに、腐敗防止方策の確立に取り組みました。

研究の内容・意義

            1. 輸出におけるかんしょ腐敗の実態解明
              九州域内の生産者から出荷された生のかんしょを対象として、輸出における腐敗の実態調査を行いました。その結果、腐敗の原因は主に軟腐病であることが明らかになり、このほか青かび病4)も発生していました。また、輸送中の腐敗は、品種によらず発生していること、11月~2月の冬季に集中していることも分かりました。
              軟腐病や青かび病は、主にかんしょの表面についた傷から病原菌が侵入して発病することが知られています。出荷前、洗浄時のブラッシングや調製(根切)によってかんしょに傷がつきますが、輸出の増大に伴い輸送期間が延びたことからこれらの傷に起因する腐敗事故が発生しやすくなったことが腐敗発生の原因として考えられました。
              なお、圃場段階で感染する病害も輸送中のかんしょ腐敗の原因になると考えられますが、これらの病害による腐敗を抑えるには、今回お示しする出荷から輸送における腐敗防止方策とは別に、圃場段階での対策を行って健全なかんしょを収穫する必要があります。
            2. 輸送中のかんしょ腐敗防止技術の確立
              かんしょの傷を治し病原菌の侵入を防ぐ技術としてはキュアリングが知られていますが、通常は貯蔵中の腐敗を防止することを目的として、収穫後洗浄せずに行われます。本実証研究では、輸出時の手順を考慮し、かんしょ出荷前の洗浄・調製後にキュアリングを実施して輸送中の腐敗防止に効果があるかを検証しました。
              まず、主要な病害である軟腐病菌をかんしょに接種して室内試験を行ったところ、洗浄・調製後キュアリングをしないと軟腐病が100%発生しましたが、キュアリングをすると発生は0%となり強く抑制されました(写真2)。
              さらに、九州内のかんしょ産地から香港までの輸出を想定した実証試験を行ったところ(図1)、輸送中の主要な病害である軟腐病の発生は、実証試験全体での4.3%から0.6%に、キュアリングなしの場合に最も腐敗率の高かった産地・品種の場合も9.4%から0.7%に、強く抑制されました(図2)。青かび病が増加したものの、全体での腐敗率(軟腐病+青かび病)はキュアリングなしの場合の6.0%から3.8%に抑制、最も腐敗率の高かった産地・品種では9.7%から2.8%に大幅に抑制され(図2)、洗浄・調製後キュアリングの有効性が示されました。
            3. 青かび病に対する対応
              青かび病については、洗浄・調製後キュアリングのみでは抑制効果が得られなかったため、包装資材の検討等による方策が必要と考えられました。現在、九州沖縄経済圏スマートフードチェーンプロジェクトにて引き続き青かび病の防止方策を開発中です。
            4. 輸送中のかんしょに対する腐敗防止方策SOPの作成
              かんしょ腐敗防止方策の普及促進のため、洗浄・調製後キュアリングの実施手順の他、冬季における温度管理等の腐敗防止のためのポイントを取りまとめたSOPを作成し、本年9月2日にウェブサイトで公開しました(関連資料1)。
            5. 本研究成果利用上の留意点
              かんしょ収穫後、キュアリングを行って出荷まで貯蔵していた場合には、本研究成果に基づいて、洗浄後のキュアリングを行うと2回キュアリング処理を行うことになり、条件によっては以下の茨城県の特許権を侵害する恐れがありますので、ご注意下さい。
              なお、茨城県の特許を使用する場合、茨城県と実施許諾契約を締結する必要があります。
              ・特許番号:特許 6705954 号、発明の名称:サツマイモの鮮度保持方法
              ・特許概要
              長期の輸送でも腐敗を抑制するためのサツマイモの鮮度保持方法であって、収穫したサツマイモを温度30~33°Cかつ湿度90%以上で3~5日間保管した後に温度13~15°Cかつ湿度90%以上で貯蔵する第1のキュアリング工程と、第1のキュアリング工程の後に洗浄したサツマイモを温度29~33°Cかつ湿度80%以上で3~5日間保管する第2のキュアリング工程から、第1のキュアリング工程においてサツマイモの皮下組織にコルク層を形成することにより収穫時に生じた傷口を塞ぎ、第2のキュアリング工程においてコルク層を再生させることによりサツマイモの洗浄時に生じた傷口を塞ぐことを特徴とする。

        今後の予定・期待

        1.本研究成果およびSOPを活用してかんしょ腐敗防止方策を普及することにより、国産かんしょの輸出安定化に繋がることが期待されます。輸出事業者、生産法人の収益を向上させ地域経済を活性化するとともに、腐敗事故の防止により国産農産物の信頼性向上にも繋がります。

        2.九州沖縄経済圏スマートフードチェーンプロジェクトでは、令和2年10月6日に令和2年度九州沖縄経済圏スマートフードチェーン事業化戦略会議を開催いたします。詳細は別紙案内、もしくは以下のURLよりご確認ください。
        https://www.naro.affrc.go.jp/q_sfc/news/135504.html


        用語の解説

        キュアリング
        キュアリングとは「治癒」を意味し、かんしょ表面についた傷を治して菌の侵入を防ぐ技術です。塊根を高温・高湿度(温度:30~35°C(好ましくは33°C以上)、湿度:90~99%)の環境に4日程おくと切り口や表皮下にコルク層が形成されます。コルク層が形成されると菌は内部に侵入できないため、貯蔵中の腐敗防止等の目的で実施されています。
        SOP(標準作業手順書:Standard Operation Procedures)
        技術の必要性、導入の条件、具体的な手順、導入例、効果等を記載した手順書。農研機構は重要な技術についてSOPを作成し社会実装(普及)を進める方針としております。
        軟腐病
        輸送中のかんしょに発生する主要な病害の一つであり、かんしょの収穫や洗浄、調製(根切)等でできた傷口から病原菌(かび)が侵入して発病します。発病したかんしょは軟化し、触るとスポンジのように軟らかくなります。病徴の進展は非常に早く、海上輸送中に大きな被害を及ぼすケースもあります。軟腐病の病原菌は空気中など様々な環境に存在しており、かんしょ腐敗の原因となる一般的な病害です。
        青かび病
        冬の箱買いしたみかん等で表面に発生する青かび病菌や緑かび病菌と近縁の糸状菌が病原菌となります。白色のかびが時間の経過とともに青から緑色に着色するのが特徴で、かんしょの表面の傷口や皮がむけた箇所等に発生します。軟腐病と同様、様々な環境に病原菌が存在する一般的な病害です。

        関連情報

        1.輸送中のかんしょに対する腐敗防止方策SOP

        https://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/laboratory/naro/sop/136531.html

        参考図

        syasin1.png

        写真1 輸送中のかんしょに発生した腐敗の様子

        syasin2.png写真2 軟腐病に対する洗浄・調製後キュアリング実施の効果(室内試験)

        洗浄・調製(根切)済のかんしょに軟腐病菌を接種し、洗浄・調製後キュアリングを実施した場合としない場合の軟腐病の発生を比較しました。洗浄・調製後キュアリングの条件:温度 33°C、湿度 95%以上、4日間。洗浄・調製後キュアリングをしないと軟腐病が100%発生しましたが(写真右の黒い部分)、キュアリングをすると発生は0%となり強く抑制されました。

        zu1.png

        図1 洗浄・調製後キュアリング実証試験の概要

        zu2.png

        図2 かんしょの腐敗に対する洗浄・調製後キュアリングの効果(実証試験)

        洗浄・調製後キュアリングにより軟腐病の発生は大きく抑制され、腐敗全体(軟腐病+青かび病)に対しても抑制効果が認められました。洗浄・調製後キュアリングの条件:温度 35°C、湿度 95%以上、3日間。九州内のかんしょ産地(2カ所:産地A、産地B)で2019年に収穫・貯蔵されたかんしょを試験材料としました。品種は産地Aでは「高系14号」、「べにはるか」、産地Bでは「高系14号」を供試しました(一つの産地・品種についてキュアリング実施・未実施それぞれに約40kg(一部30kg)ずつ供試)。洗浄・調製後キュアリング実施の場合は、かんしょの洗浄・調製後にキュアリングを実施したうえで袋包装して段ボール詰めで保管しました。また、洗浄・調製後キュアリング未実施の場合は洗浄・調製後に袋包装して段ボール詰めで保管しました。
        グラフ(a)は実証試験全体の結果を示しており、グラフ内数値は軟腐病+青かび病の腐敗率を表し(各試験地・品種毎に算出した腐敗率の平均値)エラーバーは標準偏差を表しています。また、グラフ(b)は洗浄・調製後キュアリングを行わない場合に腐敗の発生が高かった産地・品種(産地A、「高系14号」)の結果を示しています。