プレスリリース
「遺伝子が見えた!」ナノレベルで世界初、新顕微鏡でDNAの直接観察が可能に

- 走査型光プローブ -

情報公開日:2002年3月13日 (水曜日)

背景

昨年、人の塩基配列(DNA配列)が全部解読されたとのニュースが話題になりました。これは、全部のDNA配列を読んでその上の遺伝子をすべて特定するのが一つの目的です。しかし、研究の目的によってはすべての遺伝子を解読しなくても、遺伝子の位置や順序、数、遺伝子同士の距離などを予め知ることだけでも、遺伝子の解析にはとても重要な情報です。
これまでもDNAをスライドガラス上で伸ばし、遺伝子の位置を蛍光色素で光らせてその位置を直接光学顕微鏡で測定する方法がありました。しかしながら光学顕微鏡では原理的に1μm以下の領域を細かく見ることができず、一本鎖DNAと二本鎖DNA注)を区別することや遺伝子の位置を正確に検出するには、分解能に限界があり到底満足できるレベルではありませんでした。

注)DNA自体はたくさんの塩基が一列に配列したものが二本らせん状に絡み合い、直径約2nmのいわゆる「二重らせん」構造をとっています。厳密には、一本の塩基の配列を一本鎖DNA、二重らせん構造の通常のDNAを二本鎖DNAと呼びます。

成果の内容

今回、走査型光プローブ原子間力顕微鏡(SNOM/AFM, Scanning near-field optical / atomic force microscope) (図1)を用いて、一本鎖DNAと二本鎖DNAの識別(図2)ならびにDNA上の遺伝子の位置を直接ナノレベル(10億分の1メートル、大腸菌の千分の一)で測定すること(図3)に世界で初めて成功しました。さらに蛍光色素を一分子ごとに検出すること(図4)にも成功しました。SNOM/AFMは走査型トンネル顕微鏡(STM)の発展型で、試料の形と試料に結合した蛍光色素を同時にナノレベルで計測できる装置です。独立行政法人食品総合研究所、日本原子力研究所、セイコーインスツルメンツ株式会社と生物系特定産業技術研究機構は共同で、このSNOM/AFMの改良、直径2nmのDNAを固定する方法、DNA上の遺伝子に確実に蛍光色素をつける方法などの開発を行い、上記の成果を達成いたしました。
具体的には、回転している雲母板の中心にDNAを含む液滴を落とし、遠心力でDNAを伸ばしながら固定します。次に、鋭い先端を持つ光ファイバー製の探針で、その上をなぞってDNAの形と光の情報の両方をコンピュータに取り込みます。取り込んだ情報をコンピュータ内でそれぞれ形の像と光の像(形状像と蛍光像)に分けて画像化します。この時二本鎖DNAだけに結合する蛍光色素を使うと、一本鎖DNAの形状像は見えますが、蛍光像は見えません。反対に、二本鎖DNAは形状像と蛍光像の両方が見え、二本鎖DNAであることが確実に分かります。従来の形状像だけの計測では、高さや太さに差が少ないため一本鎖と二本鎖DNAの判別は非常に困難でした(図2)。今回、明るい蛍光色素(Alexa532)が結合した特殊な検出用蛍光標識(PNA(Peptide nucleic acid)プローブ)を工夫して用いることで、初めてDNA上の遺伝子の位置検出を可能にしました(図3)。これによって、標識した遺伝子が1カ所に存在し、長いDNA上の特定の位置に実際に存在することが目で確認できました。この検出が可能になったのは、ナノレベル以下での装置制御技術の向上、光ファイバー製探針の改良、および上記の工夫をお互いに上手く融合できたのが大きな要因です。装置の改良によって、単分子の蛍光色素が発光する非常に弱い光を捕らえることができたことも大切な技術的な裏付けになっています(図4)。

今後、この技術をさらに改良することにより、現在はDNA配列からコンピュータによって計算している、遺伝子の順序や数、あるいは遺伝子同士の距離が目で直接確認できるようになります。最終的には、迅速に必要な特定の遺伝子を直接解析できる方法として確立したいと考えています。このため、さらに簡便に遺伝子の位置が検出できるように研究を進めると共に、精度の向上や染色体上の遺伝子の検出なども進めていきます。

本研究は、生物系特定産業技術研究推進機構の基礎研究推進事業「ナノFISH法の開発」(平成11年~14年)により行われています。


詳細情報

図1 走査型光プローブ原子間力顕微鏡(SNOM/AFM)の原理

図2 走査型光プローブ原子間力顕微鏡(SNOM/AFM)による一本鎖DNAと二本鎖DNAの区別

図3 SNOM/AFMによるDNA上の遺伝子のナノレベル検出

図4 SNOM/AFMによる蛍光色素(Alexa532)単分子の検出