プレスリリース
グルテン不使用の100%米粉パンの製造技術を開発しました

- 小麦アレルギーへの対応と米の消費拡大に貢献 -

情報公開日:2017年1月26日 (木曜日)

ポイント

  • 米粉、水、ドライイースト、砂糖、食塩、油脂(バター等)のみで、グルテン1)増粘剤2)を使わずに米粉パンを製造する技術を開発しました。
  • 市販の米粉を使って一般的なホームベーカリーやオーブンで作製可能です。
  • 小麦アレルギーへの対応や、米の消費拡大に貢献すると期待されます。

概要

100%米粉パン
100%米粉パン

  1. 市販されている米粉パンの多くは、パンを膨らませるため小麦グルテンが添加されており、小麦アレルギーの方は食べられませんでした。また、これまで大手で製造されているグルテン不使用の米粉パンは、増粘剤やデンプンを加えて膨らみやすくしたり、特別な製造機器を必要としたりするものがほとんどでした。今回、農研機構食品研究部門と広島大学は共同で、市販のオーブンで、補助材料を使用しなくても基本原料だけでよく膨らむ100%米粉*パン(グルテン不使用)を製造する技術を開発しました。
    *:水、イースト、砂糖、食塩、油脂を除く主原料が米粉100%です。
  2. 原料にデンプンの損傷度3)が低い米粉を選択すること、および発酵・焼成の工程を工夫することにより、比容積4)が4以上(グルテンを添加したパンと同等)の十分な膨らみをもつ米粉パンの作製に成功しました。詳細な情報は、特許実施利用許諾により共同研究者に提供します。
  3. 農研機構は今後、この100%米粉パンについて品質改善や商品化など、海外展開を含めた実用化研究を進めます。
  4. 本技術により作られる100%米粉パンは、小麦アレルギーやセリアック病5)に悩む方にとって朗報になるとともに、お米のおいしさを活かした新しいパンを提供することで、米の消費拡大に貢献すると期待されます。

予算

運営費交付金

特許

特願2015-144349

背景と経緯

食料自給率の向上のため、我が国の基幹農産物である米の消費拡大は、重要な課題となっています。近年、手軽さ等を利点とするパン類を朝食に取り入れる頻度が高くなっていることから、米の新たな利用法の一つとして、米粉をパン類に利用する研究開発が精力的に行われています。これまで、小麦から調製したタンパク質(グルテン)を添加した米粉パンの製造法が開発されてきましたが、主原料が米であるにもかかわらず、小麦アレルギーの方は食べられないなどの問題点がありました。そこで農研機構では、グルテン不使用の100%米粉パンの研究開発に取り組みました。

内容・意義

  1. 補助材料を使用せず、「米粉、水、ドライイースト、砂糖、食塩、油脂(バター等)」の基本原料だけで、膨らみのよい100%米粉パン(グルテン不使用)を製造する技術を開発しました(写真1)。本技術は、一般的なオーブンでのパン作りに利用できます。
  2. 原料にデンプンの損傷度が低い米粉を選択すること、および柔らかい生地がつぶれないように発酵・焼成の工程を工夫することにより、比容積が4以上の十分な膨らみをもつ米粉パンの作製に成功しました(写真1図1)。
  3. 本技術は特許出願済みであり、詳しい情報は特許実施利用許諾により共同研究者に提供します。
  4. 100%米粉パンが膨らむ仕組みは、農研機構が広島大学と共同で提唱したもので、米のデンプン粒が空気と水の界面を安定化させることで、発酵生地の気泡を維持している(ピッカリングフォーム6))と推定されます(図2)。これは、洗顔フォームなどで界面活性剤が空気と水の界面を安定化させるのと似た原理です。
  5. 4のとおり、生地が膨らむ仕組みが推定できていることから、その仕組みに応じたやり方を選択することにより、パンをもう少し膨らませるにはどうすればよいか、どんな焼き型が適しているかなどの具体的な製造法の検討や、他の材料(チョコレートなど)を加えても大丈夫かなど、商品開発の企画が容易になります。

今後の予定・期待

本技術は既存のパン工場の設備と同等の設備があれば、100%米粉パン(グルテン不使用)を作製できます。100%米粉パンは、小麦アレルギーやセリアック病に悩む方にとって朗報になるとともに、お米のおいしさを活かした新しいパンを提供することで、米の消費拡大に貢献すると期待されます。今後、製パンメーカーをはじめ様々な業種と共同研究を実施する予定です。

関連論文

スイスの食品科学誌『LWT- Food Science and Technology』に1月26日に最終版がオンライン掲載予定。
著者:Yano H, Fukui A, Kajiwara K, Kobayashi I, Yoza K, Satake A, Villeneuve M (2017)
論題:Development of gluten-free rice bread: Pickering stabilization as a possible batter-swelling mechanism. (グルテンフリー米粉パンの開発:生地が膨らむメカニズムはピッカリング安定化と推定される) DOI:10.1016/j.lwt.2016.11.086

用語の解説

1) グルテン
小麦、ライ麦など、穀物の胚乳で生成されるタンパク質。その粘り気で、パン酵母が出す発酵ガスを閉じこめるため小麦パンが膨らみます。一方、小麦アレルギーやセリアック病の主要因です。

2) 増粘剤
食品(飲料も含む)に粘性や接着性をもたせるための食品添加物。食品に添加されるものには、動物性のもの(ゼラチン等)と植物性のもの(多糖類やセルロースの誘導体等)とがあります。

3)デンプンの損傷度
米粒から米粉を製造する際、粉砕中に発生する熱や衝撃等により粒構造に損傷を受けたデンプンのデンプン全体に占める割合。グルテンや増粘剤を添加した米粉パンでは、一般的にデンプンの損傷度が低い米粉を使用した際に比容積が高まる傾向にあることが知られています。

4) 比容積
パンの重量当りの容積(mL/g)。パンの膨らみを示す代表的な指標のひとつです。

5) セリアック病
グルテンに対する異常反応に誘発される自己免疫疾患。小腸上皮組織に炎症を起こすため、栄養を吸収できなくなり、栄養不足に陥ります。アジアでは稀な病気ですが、欧米では患者が多く社会的問題となっています。異物に対する防御反応である小麦アレルギーとは発症メカニズムが異なります。

6) ピッカリングフォーム
油が水に分散する場合には、界面活性剤(分子サイズは10-10~10-9 m程度)が水相と油滴の間に存在し、界面を安定化します。これは「エマルション」とよばれます。特に、微粒子(10-9~10-5 m程度)が界面を安定化させる場合には、発見者S. U. Pickering の名前を用いて、ピッカリングエマルションとよばれます。本研究成果では、微粒子はデンプン粒、気相は発酵ガスであり、発酵中の生地ではピッカリングフォーム(気泡)が形成されると考えられます。

エマルションや一般的なフォームと比較したピッカリングフォームの構造
エマルションや一般的なフォームと比較したピッカリングフォームの構造

参考図

写真1.パンの発酵・焼成
写真1.パンの発酵・焼成
今回開発した発酵・焼成過程では、発酵の際にパン生地が比容積4 mL/g 以上に膨らみ、焼成しても高い比容積が維持されます。

図1.デンプン損傷度とパン比容積
図1.デンプン損傷度とパン比容積
デンプンの損傷度が5%以下の米粉を使用して、今回開発した発酵・焼成過程でパンを作ると、パンの比容積が4以上になります。11種類の米粉を比較しています。

LWT- Food Science and Technology誌への掲載論文”Yano H, Fukui A, Kajiwara K, Kobayashi I, Yoza K, Satake A, Villeneuve M (2017) Development of gluten-free rice bread: Pickering stabilization as a possible batter-swelling mechanism.”(印刷中)より、Elsevier社から許可を得て転載。

図2.パンが膨らむ仕組みの推定図と発酵中の気泡との比較
図2.パンが膨らむ仕組みの推定図と発酵中の気泡との比較
発酵ガスと水相の界面をデンプン粒が安定化させてピッカリングフォーム(気泡)を作ることによって、生地が膨らむと推定されます。光学顕微鏡の写真でも、デンプン粒が気泡をびっしりと取り囲む様子が観察されました。