プレスリリース
(研究成果) ウェブで使える「全国デジタル土壌図」

- (新)農耕地土壌図も同時公開 -

情報公開日:2017年4月 6日 (木曜日)

ポイント

  • 日本全国の土壌の種類や分布がわかる「全国デジタル土壌図(縮尺20万分の1相当)」を作成しました。ウェブ配信サイトを通じ、本日提供を開始します。
  • このほか、農耕地のみ対象の「農耕地土壌図(縮尺5万分の1相当;今回、従来版を改良)」と併せて、オープンデータ化し、2次利用が可能な形で無償配布します。
  • 農作物の施肥管理や水管理など農業への利用に加え、環境に関する行政施策への貢献が期待されます。

概要

ウェブサイト

  1. 農研機構農業環境変動研究センターは、全国の農地を対象に、土壌の種類や分布がわかる「(旧)農耕地土壌図」を作成し、2010年4月よりウェブ配信を行ってきました。この土壌図にはこれまでに250万件を超えるアクセスがあり、営農指導などの現場で広く利用されています。
  2. 今回、より多様な利用場面に対応できるように、農耕地以外も含めた日本の国土全域を網羅する「全国デジタル土壌図(縮尺20万分の1相当)」を作成しました。併せて、改良版の「農耕地土壌図(縮尺5万分の1相当)」も作成しました。両土壌図について、ウェブ配信サイト、日本土壌インベントリー1) (https://soil-inventory.rad.naro.go.jp/)を通じて、本日提供を開始します。
  3. 「全国デジタル土壌図」、および「(新)農耕地土壌図」は、様々な地理情報システムで利用できる汎用ファイル形式で、2次利用が可能なオープンデータ(CC BY 4.0)2)として無償配布します。
  4. 公開する土壌図は、農作物の施肥管理や水管理など農業への利用に加え、土壌ごとに異なる化学物質(セシウムなど)の動態把握など環境に関する行政施策への貢献も期待されます。

関連情報

予算:運営費交付金

社会的背景と経緯

土壌は、養分や水を保持して植物に供給し、農業生産や自然生態系を支えるとともに、炭素の貯留や温室効果ガスの発生など、地球規模の物質循環においても重要な役割を果たします。土壌が持つこれらの機能は、土壌の種類やその性質によって大きく異なります。そこで土壌の機能を最大限に利用するためには、各種土壌の分布を把握し、種類に応じた管理(施肥管理、水管理等)をする必要があります。
農研機構は、日本全国の農耕地を対象に、土壌の種類と分布がわかる「農耕地土壌図(縮尺5万分の1相当)」を作成し、2010年4月よりウェブ配信を行ってきました。この土壌図には公開後6年間で250万件を超えるアクセス数があり、営農指導など農業生産現場を中心に広く活用されてきました。
近年、土壌情報の利用場面が環境面に拡大し、農耕地以外の土壌図の利用ニーズが高まってきました。例えば、農耕地と山林を含む地域での化学物質の分布・移動予測や、開発を目的とした自然環境の調査および影響予測評価などに土壌図が使われます。しかし、わが国の土壌図は「農耕地」、「林野」などの利用形態ごとに作成されてきており、異なる利用形態の土地について、一つの分類基準に基づいて作成された土壌図はほとんどありませんでした。
そこで農研機構は、農耕地以外も含む日本全域を網羅する土壌図の作成と利用しやすいデータ提供システムの開発に取り組んできました。

内容・意義

  1. 農研機構は、今回、農耕地以外も含めた日本の国土全域を網羅する「全国デジタル土壌図(縮尺20万分の1相当)」を作成しました。この土壌図は、2011年に策定された分類基準(包括的土壌分類体系第1次試案3))に基づいています(発表論文参照)。併せて、改良版である「(新)農耕地土壌図(縮尺5万分の1相当)」を作成しました。両土壌図について、ウェブ配信サイト「日本土壌インベントリー(https://soil-inventory.rad.naro.go.jp)」を通じて、本日提供を開始します(図1)。
  2. 「全国デジタル土壌図」、および「(新)農耕地土壌図」を、ウェブ配信サイトを通じて、様々な地理情報システムで利用できる汎用ファイル形式(シェープファイル形式4))で、2次利用が可能なオープンデータ(CC BY 4.0)として無償配布します(図2)。
  3. (新)農耕地土壌図は、旧農耕地土壌図(60分類群)と比較して、より詳細な分類情報(381分類群)を提供します(図3)。
  4. 土壌分類解説ページ(図4)では、新しい土壌図が参照している土壌分類について、土壌の写真や分布状況などを示しながら解説しています。

今後の予定・期待

日本全域を対象に、同一の分類基準で作成された「全国デジタル土壌図」は、農作物の栽培管理など農業での利用に加え、化学物質(セシウムなど)の動態把握など環境に関する行政施策に貢献すると期待されます。
また、土壌図をオープンデータ・汎用形式で提供することにより、土壌図の2次利用やユーザー独自のシステムでの利用が容易になり、各方面での土壌図の利用が進むと期待されます。
日本土壌インベントリーで表示される土壌図は、iOS搭載端末からGPS機能を用いて、利用者の位置情報から検索できるe-土壌図II5)でも提供します。現地で必要に応じた土壌情報を手軽に利用可能となります。

用語の解説

1)日本土壌インベントリー
全国デジタル土壌図と(新)農耕地土壌図の閲覧およびデータ提供の機能をもち、また土壌分類の解説や土壌温度などの情報を提供するウェブサイトです。

2)オープンデータ(CC BY 4.0)
土壌図はクリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際パブリック・ライセンスという著作権ルールの下、原作者のクレジット(農研機構、日本土壌インベントリー)を表示することを条件とし、改変、営利目的での二次利用も許可されるオープンデータとして提供を行います。

3)包括的土壌分類体系第1次試案
農耕地と林野とで区別なく使用できる最新の土壌分類法であり、農研機構(当時の農業環境技術研究所)が、2011年に作成しました。この分類法は、今まで使われてきた農耕地土壌の分類法や最新の国際的な土壌分類との読み替えが容易であるという特徴があり、これまで蓄積してきた農地土壌に関する知識やデータを引き続き活用でき、国際的な比較も可能となります。

4)シェープファイル形式
ESRI社が提唱する図形情報と属性情報をもった地図データファイルで、多くの地理情報システムソフトウェアで利用することができます。

5)e-土壌図II
iOS版アプリ(無料)。iOS搭載端末にインストールすることで、GPS機能を使い利用者の位置情報をもとに「日本土壌インベントリー」が配信する土壌図を検索、表示することができます。

発表論文

  1. 神田隆志・高田裕介・若林正吉・神山和則・小原 洋 2017.包括的土壌分類第1次試案に基づく縮尺1/5万全国デジタル農耕地土壌図の作成. 日本土壌肥料学雑誌, 88, 29-34.
  2. 神田隆志・高田裕介・神山和則・小原 洋 2016. 包括的土壌分類第1次試案に基づく北海道土壌図の作成―新分類基準による林野の黒ボク土分布域の改訂―. 日本土壌肥料学雑誌, 87, 184-192.
  3. 神田隆志・高田裕介・若林正吉・神山和則・小原 洋 2016. 北陸および中部地方における縮尺20万分の1土壌図の作成―包括的土壌分類第1次試案と日本の統一的土壌分類体系第二次案との比較検討―. ペドロジスト, 60, 14-31.
  4. 小原 洋・高田裕介・神山和則・大倉利明・前島勇治・若林正吉・神田隆志 2016. 包括的土壌分類第1次試案に基づいた1/20万日本土壌図. 農業環境技術研究所報告, 37, 133-148.
  5. 若林正吉・高田裕介・神山和則・小原 洋 2014. 1/5万農耕地土壌図の包括的土壌分類第1次試案への読替え試行. 日本土壌肥料学雑誌, 85, 349-357.

参考図

図1.全国デジタル土壌図
図1.全国デジタル土壌図
土地の利用形態によらず、日本全域を網羅しています。画面上で目的の場所を選ぶと凡例が表示されます。土壌図を拡大表示することにより、全国土を対象とした土壌図(縮尺20万分の1相当)から農耕地土壌図(縮尺5万分の1相当)へと表示が切り替わります。

図2.土壌図の提供
図2.土壌図の提供
都道府県別の土壌図をオープンデータ(CC BY 4.0)として、地理情報システム(GIS)用の汎用ファイルフォーマットであるシェープファイル形式で無償提供します。

図3.新しい農耕地土壌図(上図)と旧農耕地土壌図(下図)との比較(北海道根釧地域)
図3.新しい農耕地土壌図(上図)と旧農耕地土壌図(下図)との比較(北海道根釧地域)
火山灰の影響を受けるこの地域の土壌は、新しい農耕地土壌図では7種類(旧農耕地土壌図では4種類)に分けられており、土壌がリン酸を固定する能力や乾燥のし易さなどの違いを分類情報からよりきめ細かく読み取ることができます。

図4.土壌分類について解説
図4.土壌分類について解説
新しい分類法にもとづく10の土壌大群、27の土壌群についての土壌分類学的な解説を見ることが出来ます。